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不動産小口化で不動産価値を高めるスキーム

2024年5月16日

不動産の流動性が高くなるメリット

不動産の「取り組みが難しい特徴の1つ」に、「流動性の低さ」があります。1つの不動産を1人(あるいは1つの法人)が保有することになれば、権利関係がシンプルであり、全権を持つ所有者の一存で不動産に対するアクションを起こすことができます。しかし、金額が大きくなること、登記等の手続きに手間がかかることなどから、流動性は低くなります。そこで不動産においては、様々な手法を用いて(様々なスキームで)所有権等の細分化が行われています。

不動産を実質細分化(=小口化)することで、流動性が高くなり、流動性が高まることで、その不動産単体よりも総額として高くなる可能性が生まれます。

以下、不動産小口化の代表的な2つのスキームを取り上げて解説します。

区分所有による不動産の小口化

不動産の所有権を細分化している最もシンプルなスキームは、「区分所有」でしょう。区分所有とは、分譲マンションのように、建物が独立した各部分から構成されているとき、その建物の独立した各部分を所有することです。1つの建物を区分所有権として複数の所有者が保有します。

一方、一般的な一戸建て住宅は、区分所有不動産ではありません。区分所有不動産はマンションだけでなく、ビルや商業施設でも見ることができます。

区分所有不動産の小口化の実例とカギを握る管理

一般的な分譲マンションはそもそも区分所有前提の建物ですが、投資用のマンションにおいては、収益賃貸住宅1棟全てを所有するタイプと、ワンルームマンションなどのような区分ごとに所有するタイプがあります。後者は、小口化された収益マンションと言えます。どちらも同じ収益を上げるための賃貸マンションですが、1棟物件の流動性と区分マンションの流動性は大きく異なります。

10年くらい前からは、ビルを区分所有するスキームが広がりました。デベロッパーが購入して所有するビルをフロアごとに細分化して、フロアの区分所有権を投資家や企業向けなどに販売。区分所有者は、そのフロアを自ら使用するか、賃貸して収益を得るか、を選択します。自ら使用すれば分譲マンションと同じタイプで、賃貸すれば投資用区分マンションと同じタイプといえます。

区分所有不動産は、各区分所有権保有者が専用利用権を持つ専有部と、その建物の区分所有者全員が利用する共用部(例えば、エントランスやエレベーターなど)で成り立っています。そのため、所有者から成る管理組合を結成して、共用部を中心に建物全体の運営を行う必要性が出てきます。これは、分譲マンションでも投資用区分マンションでも、ビルの区分所有でも同様となります。この管理組合が上手く機能し、管理状況が円滑に行われているかどうかで、不動産の価値に多少の違いが出ます。

不動産証券化のスキームと投資家のメリット

これとは別のスキームに「不動産証券化」があります。ビルの流動性を高めるために、フロアごとに区分所有権として分割するスキームは、先に述べた通りです。しかし、この方法では、例えば10階建てのビルで、1階全体がエントランスとなる場合、フロアごとの区分所有権ならば、9つにしか分割できません。そのため、都市部のビルなどでは、「それでもまだ、かなりの金額」ということになります。

もっと細分化して、もっと安価にして、もっと流動性を高める手法が不動産証券化です(以下、不動産の例をビルとして説明します)。不動産証券化は、ビル自体を細かく刻んで分割することはできませんので、このビルから生じる収益を裏付け資産とした証券(=資産担保証券:Asset Backed Securities =ABS)を発行し、有価証券として販売するスキームです。

具体的には、ビル所有者が特定目的会社(SPCあるいはTMKと言われます)を設立し、そこにビルを売却します。次に、SPCまたはTMKはビルから得られる収益を裏付け資産とした証券を発行し、投資家などに売却します。

先に述べたように、区分所有権の場合は、自ら使用する場合も多くありますが、証券化された不動産は、「その不動産から収益が上がること=収益性」が価値となりますので、賃料を得ることが前提となります。不動産証券化の裏付け資産は、ビルだけでなく、賃料収入があるマンションでも、収益不動産全般に適用することができます。

このように考えれば、ここでの証券は、「収益を得る権利」ともいえますので、「信託受益権」と言い換えることもできます。

不動産証券化により、収益不動産は小口化されますので、流動性が増し、多くの投資家の購入可能性が高まります。また、投資家目線では、様々な不動産証券化商品を買うことで、資産の分散になり、リスクヘッジが可能になります。

吉崎 誠二
不動産エコノミスト・不動産企業コンサルタント
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

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