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ホテル経営

2023年8月17日

経営不振で閉館したホテル、その後の再利用・転用事例

訪日外国人旅行者は、2020年に東京オリンピックが開催されることが決まった2013年に初めて1,000万人を超え(約1,036万人)ました。その後、順調に増え2016年には2,000万人、2018年には3,000万人を突破し、新型コロナウイルスまん延前の2019年には約3,188万人にまで増えていました。

2020年開催(実際は2021年開催)の東京オリンピックでは、会場となる東京や首都圏では多数のインバウンド需要が見込まれ、さらにオリンピック観戦のため東京を訪れた訪日外国人旅行者の地方の、例えば京都や大阪、沖縄、北海道などへの国内2次的観光も見込まれました。

また、国内の移動においても大きな変化が見られました。2013年からの金融緩和政策で徐々に経済活性化が進み、インバウンド需要だけでなく、国内の移動(ビジネス、観光)も活発化しました。こうした背景から、首都圏だけでなく地方でもホテル建築ラッシュが続きます。

しかし、2020年に入り新型コロナウイルスが世界中でまん延し始め、訪日外国人旅行者は2020年3月以降激減、2021年には約25万人(2019年比で0.8%)に落ち込み、また国内のビジネス移動・旅行客も激減しました。

国内の人流が戻り、訪日外国人旅行者が増え、ホテル需要がコロナ禍前の水準に回復したのは2023年に入ってからとなり、3年もの間需要が激減したために一部ホテルでは、経営を継続できずに、閉館・売却されました。また、ホテルの建て替え計画をそのまま推進するプロジェクトもありましたが、建て替えをあきらめての計画変更、用途変更、計画延期なども見られました。

新型コロナ禍の影響で経営不振となり閉館したホテルが、その後、活用された事例をご紹介します。

経営不振 → 閉館 → 跡地再開発 「ホテルグランドパレス:九段下」

ホテルグランドパレスは、東京メトロ 九段下駅徒歩1分の立地にある1972年に開業した伝統あるホテルでした。コロナ禍の影響からの経営不振のため、2021年6月30日に閉館。好立地であることから、同年9月22日には、跡地の再開発について基本合意が行われ、「三菱地所、三菱地所レジデンス、阪急阪神不動産、東宝により、ホテルグランドパレス跡地の一部を取得し、ホテルグランドパレスとともに複合ビルを建設する予定」と発表されました。※1

経営不振 → 閉館 →リノベーションして別業態で利用
「HOTEL NEXUS DOOR TOKYO:御成門」

アミューズメント関連企業であるNEXUSグループは、13階建て95室のビジネスホテルを運営していましたが、コロナ禍の影響により2021年8月末で営業を終了。ホテルの建物を、業態変更のために全面的にリノベーション工事を行い、2階から13階までのフロアを、「最新トレーニングマシン完備のフィットネス専用個室」43室と「個室ロウリュウサウナ」21室を設置した、24時間完全個室フィットネス&サウナ施設として、2022年2月にリニューアルオープンさせました。フィットネスジムもサウナも個室という、ウィズコロナ時代に対応したスタイルの、特徴あるジムになっていましたが、2023年9月一杯で閉館し、さらに他業態への転換を計画しています。※2

経営不振 → 閉館 → 住宅分譲地 「宇都宮グランドホテル:宇都宮市」

宇都宮グランドホテルは、江戸時代より宇都宮藩主の別邸であった由緒を引き継ぎ、1971年にホテルとして開業、昭和天皇や英国サッチャー首相など国内外の貴賓客も利用した名門ホテルでしたが、コロナ禍の影響で経営改善が見込めず、2021年7月に閉館しました。ホテル跡地(約35,000㎡)は、宇都宮に本社を構える戸建て分譲会社であるグランディハウスが取得することとなり、138区画の分譲計画が2023年1月に発表されました。グランディハウス社は、宅地開発に合わせ、ホテル敷地内にあった広大な日本庭園の古木を生かした公園など、緑の多い環境を整備する構想を表明しました。※3

経営不振 → 閉館 → 建物と付帯設備を分割して利用 「グリーンパークホテルうさ:宇佐市」

大分県宇佐市にあるグリーンパークホテルうさは、元は、1995年にオープンした「かんぽの郷宇佐」で、これを2015年に宇佐市が購入し、保有・運営していました。しかし、コロナ禍の影響から、2020年4月に臨時休業、2022年3月末には、ホテル運営継続を断念し閉館となりました。

ホテルは、分割利用されることになります。ホテル併設の体育館、プール、グランドゴルフ、テニスコートについては、市営のスポーツ施設としての管理運営がされています。

一方、ホテルの建物は、宇佐市医師会の検診センターとして活用されることになり、また医師会は、市が所有する隣接地に医師会病院を移転新築する計画で、検診センターと合わせて2026年の開業を目指すことになっています。※4

2023年3月31日に「観光立国推進基本計画」が閣議決定され、持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大の3つの戦略に取り組むことになり、持続可能な形での観光立国の復活に向けて、本計画を政府一丸、官民一体となって推進する施策が導入されます。

2023年に入り、すでに国内の移動、訪日外国人旅行者の増加は顕著になってきています。さらに今後は中国からの観光客流入も見込まれ、ホテル需要は大都市部だけでなく、地方でも増大するものと思われます。

しかし、いまの国内外旅行者の急増が一時的なペントアップ需要に終われば、再び需要の反動減になりかねません。持続的な観光立国になるように期待したいものです。

参照:引用
※1 株式会社 ホテルグランドパレス 会社概要告知より
※2 マジェスティ御成門クラブ お知らせ(2023年7月15日付)より
※3 読売新聞オンライン 2023年1月17日より
※4 宇佐市HP、西日本新聞 2022年4月14日より

吉崎 誠二
不動産エコノミスト・不動産企業コンサルタント
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

現場から一言 三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 統括営業部 情報開発営業グループ エグゼクティブコンサルタント 渥美 直史

渥美直史

コロナによる経営不振はすでに過去のことであり、現在のホテル業界は、国内外の旅行者の増加と中国からの入国規制緩和により、全体的には楽観的な兆候を示しています。観光需要の拡大は、ホテル業界にとって好機となりました。ただし、この好機にも一部の課題が存在します。

まず、人手不足が深刻な問題となっています。ホテル業界は多くの従業員を必要とするため、人材確保が喫緊の課題で、一部のホテルは従業員不足で稼働率を上げられず、経営に影響が出ています。

さらに、民泊サービスやグランピングなどの新たなサービスとの競合が激化しています。また、開業増などによるホテル間の競争もますます激しさを増しています。需要の急増によって、多くのホテルが建設されましたが、その結果、一部の地域では供給過剰の状態となっています。

ホテルオーナーや運営者は、これら目の前の課題解決のため、差別化戦略の展開やIT化による業務効率化などを検討する必要がありますが、それと並行して、コロナ禍の時節ほどでは無いにしても、ホテル需要が著しく弱まった状況に備えることは不可欠です。

ホテル需要が弱まり運営が困難に直面した場合に、建物の転用や、ホテル以外の需要があるエリアに立地するかなど、不動産そのものとしての価値を常に把握する必要があり、弊社は不動産のプロとして、そのアドバイスができると自負しております

三井不動産リアルティ株式会社
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