トピックス

REALTY PRESS
医療・介護分野で進むM&A

2025年8月21日

医療・介護分野で進むM&A

M&Aが進む背景

日本は今、人口構造の転換期にあります。少子高齢化・過疎化が進み、都市と地方の格差拡大に伴う医療資源の偏在、人材不足、また医師の高齢化や後継者不足といった課題が深刻化する中、医療・介護などのメディカル関連プレイヤーの経営環境にも急速に波風が立っています。そうした状況下で注目されているのが、M&A(企業等の合併・買収)による経営強化策です。

近年、医療法人や介護事業者におけるM&Aの件数は増加しており、それは単なる経営改善の域にとどまらず、事業承継や医療の質の維持・向上、事業展開の場でもある施設というアセットの価値の最大化といった観点からも重要な経営戦略となっています。

厚生労働省の調査によると、令和4年度の国民医療費は約46.7兆円(前年比+3.7%)※1に達しており、医療需要は拡大を続ける一方で、病院やクリニックの経営は厳しさを増しており、2024年の医療機関の倒産件数は64件と過去20年で最多を記録、休廃業や解散は598件に達しています。※2

医療法人や診療所が直面する主な課題としては、まず後継者不足があげられ、特に地方の無床クリニックでは約90%が後継者未定という状況にあります。※3

また、診療報酬改定や競合施設の増加により収支が悪化する中、施設の老朽化に際しても建て替えやリニューアル費用の捻出が困難な事業者も増加しています。

一方、医療・介護事業への参入を考えている側としては、ゼロからの開業というリスクや、営利法人は医療法人の社員または役員になることができないという制約も踏まえると、既存の医療法人や介護事業者の事業を引き継ぐM&Aの方が合理的と判断するケースも増加しています。

M&Aの実例と、アセットとして捉える視点

実際のM&A事例として注目されたのが、東海大学医学部付属大磯病院の事業譲渡です。地域医療に貢献してきた同院は、人口減少による急性期医療の需要縮小を背景に、経営資源の集約のため事業終了を決定。39年に亘る医療事業の継承先としては、大手医療法人である徳洲会が手を上げ、診療体制の維持と職員の雇用安定を実現しました。

また、予防医療を展開する医療法人社団健若会のM&A事例では、継承先は冠婚葬祭業の株式会社メモリードで、ヘルスケア領域への異業種参入によるシナジーにより、予防医療、サプリメント、エステ事業を統合し、利用者満足度と事業成長を同時に追求していく方針を打ち出しています。

こうした事例からもわかるように、M&Aは経営改善や事業承継だけでなく、地域医療の継続やサービスの拡充といった公益性の高い目的での活用も期待し得ます。

医療法人のM&Aにおいては、対象法人が保有する有形・無形資産の価値、例えば有形資産としては、不動産、医療機器、施設の設備など、無形資産としては、患者基盤、行政からの許認可、従業員(専門職)など、また営業効果の面からは、主要医師等の人脈・評判、大学医局との関係性などが重視されます。

特に、看板となる医師のカリスマ性や定評のある診療科が収益に大きく寄与している医療法人では、その退任や継続が評価額に大きな影響を及ぼすため、M&A後ものれん効果として、その医師に残留してもらえるか、その診療科を継続できるかといった点は重要な交渉ポイントになるでしょう。

さらに、病院の譲渡では院長の常勤要件や社員総会における議決権の扱いなど、医療法や医療法人特有の制度設計も理解したうえで進める必要があります。

医療・介護分野の未来を支えるM&A

医療・介護業界のM&Aは今後ますます活発になる見込みです。上場企業の医療・介護法人のM&A事例は2018年からの6年間で、104件を記録しており、未上場を含めると600件以上に上ります。※4

今後の市場動向として予想されるのは、訪問看護やデイサービスにおける多店舗展開などのドミナント戦略の加速や、IT・保険・製薬業界など異業種連携による医療領域参入などで、そうした動きの活発化に伴い、事業の成長期での早期売却ニーズも高まっていくと思われます。

また、M&Aに着手する際の判断基準、すなわち対象法人の価値の評価方法としては、営業利益やEBITDA※5をもとにしたマルチプル法や、時価純資産+営業権を算定する年買法などが用いられています。

医療法人や介護施設にとってM&Aは、もはや回生策ではなく保有するアセットを戦略的に活かすための経営手段へと進化しています。施設や土地、医療機器といった有形資産に加え、患者基盤や行政からの許認可、職員体制などの無形資産も含めた総合的な価値の最大化が求められる時代です。

とりわけ、都市部では診療所の立地や不動産の将来性が、地方では施設一体の事業承継による地域医療の維持が重視されており、医療・介護施設は社会インフラとしての意義と、投資対象としてのポテンシャルを併せ持つアセットといえます。

そうなると、M&Aは単なる資本の移動ではなく、アセットの再編と活用を通じた地域医療・福祉の未来への投資です。保有する施設の価値を改めて可視化し、適切なパートナーと連携することで、医療と不動産の両面から持続可能な体制を構築することが可能になり、その両軸で価値を最大化できるかどうかが、将来を占う重要な分岐点となります。

参照:引用
※1 出所:厚生労働省 令和4(2022)年度 国民医療費の概況
※2 出所:東京商工リサーチ 2025.02.25付インサイトより
※3 出所:「地域別・後継者不在率/有床・無床診療所計」日医総研ワーキングペーパー2019年、2020年
※4 出所:CINC Capital 発行 「医療業界M&Aの今」2025年版より
※5 EBITDA =利息、税金、減価償却費、償却費を控除する前の利益。営業利益+減価償却費という計算式で求められます。

医療・介護業界の上場企業   M&A件数

 

現場から一言
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 営業一部 営業グループ グループ長 島田 大介

島田 大介

私たち三井不動産リアルティは、不動産流通業界のリーディングカンパニーとして、豊富な経験とノウハウを活かした不動産売買・賃貸仲介やコンサルティングをおこなっております。1975年の売買仲介事業開始以来、累積売買仲介取扱件数は100万件を突破しており、豊富な実績により数多くの物件情報を有しております。

そのような中、専門性が高いヘルスケア施設取引専門チームを独自に組成、介護事業者や医療法人、社会福祉法人などのヘルスケア施設の運営事業者との幅広いネットワークに加えて、個人投資家や国内外のプライベートファンド、投資法人などの数多くの投資家とのネットワークも構築しています。

少子高齢化、医師・看護師等の慢性的な人手不足、DXを導入したAI診断やオンライン診療など医療サービスの高度・多様化、医療法人や介護事業者のM&A(企業等の合併・買収)など、医療サービスにも多くの変化が訪れており、病院・クリニック等の医療施設の経営における課題もますます多様化しています。

私たちはご所有不動産の真の価値を知り、高齢者施設、医療施設の経営改善に活かしていくためのサポートをしてまいります。事業の拡大・多角化、事業承継及び施設の売却・購入・移転等をお考えの際には、弊社のヘルスケア施設取引専門チームにお問い合わせください。

三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 ヘルスケア施設売買サポート
TEL : 0120-985-832
ヘルスケア施設売買サポート

関連記事
団塊世代の高齢化と医療体制の課題
将来人口推計から見る、不動産市場の今後の展開
ヘルスケア施設の今後の展望

お問い合わせ

不動産に関するご相談は以下までお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-921-582 TEL:0120-921-582

受付時間:9:30~18:00(定休日/水曜・日曜)

担当部署:ソリューション事業本部
FAX:03-5510-4984
住所:東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング