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インバウンドとウエルビーイングとメディカルツーリズム

2024年8月8日

インバウンドとウエルビーイングとメディカルツーリズム

インバウンド観光客も増加状況

日本政府観光局の資料※1によれば、2024年6月の訪日外客数は約313万人で、単月として過去最高、4カ月連続して300万人を超えたこともあって1-6月の上期合計も過去最高の約1,777万人となりました。このペースが続けば、年間3,600万人の外国人が日本を訪れる見通しとなり、「観光立国推進基本計画」で目標としてきた4,000万人という数字がかなり現実味を帯びてきたようです。

国をあげての観光立国の推進を続けることが観光立国推進基本法に基づいて行われること、そして2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催で、特に2015年頃からホテルの開業が増え、大都市部はもとより全国の多くの地域で「観光ビジネス」の盛り上がりが顕著となってきました。

2023年6月以降の訪日外客数は月200万人を超え、年間では2,500万人に達しています。ドル円相場をみれば、2023年5月半ば頃から円安が一気に進み、これがインバウンド観光客増の大きな要因であることは間違いないでしょう(もちろん、コロナ禍により停滞していたペントアップ需要の要因も考えられます)。そして、8月に入り円高に振れていますが、この傾向は続くものと思われます。

コロナ禍前の2019年と比較すると、内訳として中国・韓国・台湾・香港がボリュームゾーンだったインバウンド観光客が、2023年以降は欧米からや東南アジアからの訪日客も増えています。

ラグジュアリーホテルがキーファクターに

国内外旅行需要が増え続けることを見通して、ホテルの開業が続く状況は、前述のように2015年頃からずっと続いています。特に2023年以降は、外資系の高級ホテルの新規開業が目立ちます。ラグジュアリーホテルと呼ばれる1泊5万円以上の富裕層をターゲットにしたホテルです。こうしたホテルの開業は東京23区はもとより、関西の大阪・京都など、そして地方の観光都市にも広がってきました。

インバウンド観光客に占める、「富裕層」の割合は、現状はそれほど多くはないですが※2、大きなお金を消費する富裕層は、大手ホテルとしては取り込みたい客です。これまで日本には真のラグジュアリーホテルは少なかったこともあって、マーケットに余地のある外資系ラグジュアリーホテルの開業が続いているというわけです。

訪日外客数4,000万人の目標達成は見えてきましたが、日本政府は次なる目標として2030年までに6,000万人を掲げています。人数目標だけに捉われると、マイナス面としてクローズアップされる「オーバーツーリズム」に対応しなければならないでしょう。

人数だけでなく、「どれくらい日本で消費してもらうか」の目標も合わせて掲げると、観光産業への活性化策になると思われますが、その点でラグジュアリーホテルは重要なキーファクターになります。

また、日系企業のホテルも外資系企業のホテルも顧客獲得のためのポイント会員を増やしており、グループや傘下のホテル数を増やすための買収活動なども激化しています。

国立公園にリゾートホテル誘致

2024年7月19日には政府(観光立国推進閣僚会議)から「全国の国立公園に高級リゾートホテルなどを誘致する方針」が発表されました。訪日外国人観光客が過去最多を更新していますが、都市部に集中している訪問先を地方へ誘導するという目的です。

具体的に、全国に35ある国立公園に民間企業とも連携しながら高級リゾートホテルを誘致し、地方の魅力向上を進めるという方針も示されました。

国立公園を管轄する環境省を中心に環境保全や地域の理解を得ながら2031年までに進めていく計画で、様々な反響を呼んでいます。「世界でも国立公園内のリゾートホテルは例が少ない」ので、こうした新しい計画には何かしらの反対する意見や報道も寄せられますが、斬新なアイデアではあり、環境保全等を徹底的に行うことを前提として、ぜひ進めて欲しいものです。

もう一つのカギは、こうした富裕層にリピーターになってもらう仕組みで、観光資源そのものにプラスアルファの要因が加わることによって、可能性は高まります。

ウェルビーイングとメディカルツーリズム

その要素として注目されているのが、ウェルビーイングやメディカルツーリズムです。

ウェルビーイング(Well-BEING)とは、身体も心(精神)もWellな状態であり、かつ経済的にも社会的にも良好な状態が続いているという概念です。誰もが日々求める「心も身体も満たされた幸せな状態」ですが、旅先ではより顕著にこうした体験や時間が希求されるので、旅行先でのベースとなるホテルや周辺での、教養や文化的要素の強いメニュー等を提供しその旅行の意義を深める施策が重要となります。

そしてもう一つの要因となるのが、健康の回復や維持を目的とした旅行です。

メディカルツーリズムとは、医療や健康サービスを受けるために、国内外へ旅行をすることで、海外では広がりを見せています。日本の医療機関でも、以前から旅行会社とも連携しながら進められてきましたが、富裕層を取り込むことで、拡大が期待できるマーケットです。

ウェルビーイングを実現するための前提となる医療と健康サービスを、旅行を兼ねて享受することが増えれば、観光ビジネスの裾野はいっそう広がるでしょう。体制が整う医療機関はまだ少ないようですが、今後に期待したいものです。

参照:引用
※1 JNTO(日本政府観光局)報道発表資料 訪日外客数(2024年6月推計値)2024年7月19日発表
※2 高付加価値旅行者は、訪日旅行者全体の約1%(約32万人)に過ぎないが、消費額は約14.0%(約6,700億円)を占めている 観光庁2024年3月29日発表

吉崎 誠二
不動産エコノミスト・不動産企業コンサルタント
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

現場から一言
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 統括営業部 情報開発営業グループ エグゼクティブコンサルタント  渥美 直史

渥美直史

インバウンド観光客が増加し、ラグジュアリーホテル・メディカルツーリズム等が話題になるなど、ホテル業界の好調が伝えられ、ホテルが今後も増えていくように思われますが、これに水を差しているのが建築費の高騰です。

2024年8月に入り円安基調に変化が生じ、原材料は若干下がる見込みですが、建設業の人手不足から建設労働者の賃金・労務単価は上昇しており、今後も建築費は上昇し続けると見られております。

この建築費上昇により、新たにホテルを建てることに躊躇している会社は多く、リゾート地ではホテル用地として購入したものの、ホテルを建てずに土地のまま売却に出している案件が複数見られます。

ただホテル業界は好調なので何とかホテルを作るべく、ホテルを新しく建てるのではなく、既存の事務所ビル・マンションをホテルに改修する会社も増えてきております。

ホテル業界は、社会の変化に敏感に反応する業界です。そのような中でも弊社はデータをまとめ皆様のお力になれると思っております。

三井不動産リアルティ株式会社 ソリューション事業本部 
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