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不動産

2024年1月18日

不動産業界の20○○年問題:過去を振り返る

20○○年問題とは、「その年(時)になれば大変なことが起こりそうだ」と事前に取り沙汰たされるものですが、筆者の記憶が正しければ、嚆矢となったのは「2000年に、パソコンやソフトウェアの時刻に関するトラブルが起こる」という懸念が大きく取り上げられた、いわゆる2000年問題「Year 2000 problem」でしょう。その後、ほぼ毎年のように「20〇〇年問題」が話題となってきたようです。

不動産業界でも、何年かおきに「20〇〇年問題」がニュースになります。オフィスビルが大量供給され空室が出るかもしれないと騒がれた「2018年問題」、そして直近では再び同様のリスクに注目が集まった「2023年問題」でしたが、結果として双方とも大きな事態にはなりませんでした。2018年はオフィス需要が旺盛でほぼ問題にはならず、2023年はコロナ禍からのオフィス需要回復が危惧されていましたが、新規供給ビルで多少、埋まりが遅かった程度で、「問題発生」というレベルには達しませんでした。

また、ほとんど問題とならなかったのが、「2022年問題」です。これは、生産緑地の解除により、都市部に残る農地が宅地化され、それが市場に流通することで地価下落が発生する、と指摘されていたものですが、解除希望の生産緑地の市場への放出が少なかったことに加えて、地価上昇が顕著だった時期でもあったので、2020年頃に多少メディアも取り上げてはいたものの、2022年が近づくにつれ話題に上ることも減っていきました。

2000年のパソコン関連の2000年問題、そして従来の不動産業界の「20〇〇年問題」、これまではいずれも大きな「問題」は引き起こしませんでした。これは「取り越し苦労だった」(=生産緑地問題)という面もあるでしょうが、「問題が起こる可能性を踏まえ、回避の努力をした」ということもあるかと思います。

不動産業界における2024年問題

そして、今年も「2024年問題」が取り沙汰されています。

この2024年問題は、不動産分野に関わることとしては、建築従事者の労働時間の規制による人件費の上昇や、建築資材等を運搬するドライバーの労働時間規制※に伴う運送費の上昇などにより、建築費関連が高騰するという問題です。すでに5年前から予測されていたので、かなりこの問題への回避努力は講じられているようですが、「如何ともしがたい」状況を脱せないことになりそうです。

2019年4月1日から「働き方改革関連法」が施行され、我が国において「労働環境の抜本的な改革」が進められています。長時間労働の是正、正規雇用・非正規雇用間における公正かつ公平な待遇、女性の社会進出の促進、高齢者の定年後の就業促進などがその柱となっています。

しかし、この時点での適用が困難な、建設関連・ドライバーなど運送関連・医師等については、施行まで5年間の猶予が与えられ、その期限を2024年3月末に迎えます。

2024年4月以降開始されるのが、建設業では、例えば工期に間に合わせようとして起こりがちな時間外労働の規制です。また、間接的に関係するドライバーなどの労働時間も制限されます。

建築工事費の上昇は2021年半ばから顕著となり、それは当時「ウッドショック」などと言われる建築資材費の上昇によるものでした。しかし、2023年に入ると、高止まりは続くものの上昇は止まりかけていましたが、ここにきて再び上昇ムードに転じています。

その要因として考えられることは、円安が続いていることで海外から輸入する資材費の高止まりが続いていること、また建築現場まで資材を運ぶ物流従事者(ドライバーなど)の慢性的な不足を解消するべく、人件費が大きく上昇していることです。さらにドライバーの労働時間(残業時間)の上限の適用に対応するべき人員増が、人手不足をより深刻にし、これらが今後相乗的に人件費の上昇を加速しかねません。

建築労働人件費上昇と不動産価格への影響

建設関連における労働人件費の上昇の背景には、「新型コロナウイルスの影響で入国が難しくなったこと、円安により日本で働くうま味が減ったこと等の事由により、海外からの働き手が不足していること」がこれまで指摘されていました。

ここに加えて建設従事者に対してもドライバーと同様、「時間外労働の上限」などが施行されることで、現行よりも1人当たりの労働時間を短くせざるをえない上に、必要とされる人材の確保をスムーズに実現するため、人員増と労働単価向上による総量としての人件費増大の可能性が高まっています。これが「建設業界の2024年問題」の最大のポイントです。

2024年4月に控えた「働き方改革関連法」の建設業への適用は、建設会社にとって喫緊の大きな課題となっています。これまで常態化していたと言われる、建設業における残業に、他業界と同じように「月45時間、年360時間」の上限が設けられます。

建設業従事者にとっては、勤務環境が改善される兆しになりそうな反面、その一方でDX推進や機械化等の企業努力が行われたとしても、生産性の向上はすぐに進むわけではありません。残業が減少する分、先立っては納期や人件費に大きな影響が出てくると見られます。

適用前でさえ、建設業界における深刻な人手不足は慢性化しているので、建築労働人件費は、よほど需要が落ち込まないかぎり、長期的に高止まりすると思われます。そしてその高騰は、建築関連費全体を押し上げることにもなります。

そしてここまで検証してきたように、この建築関連費の上昇はまだまだこれからが本番で、しばらくの間、「いまが、工事費の最安値」で明日にはもう上がっているという現象を起こす危険性は極めて高いと思われます。

新築分譲マンションの価格上昇にともない、中古マンション価格も上昇しています。新築物件価格の上昇は、少なくともしばらくは継続することは確実で、同様に中古物件価格も高止まりし続けると思われます。

※労働基準法の改正により、時間外労働の上限が法律に規定され、2019年4月(中小企業は2020年4月)から適用されています。ドライバーに関しては、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が960時間です。
厚生労働省HP 時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省 (mhlw.go.jp)より

※勤務時間インターバル制度を導入し、終業から始業までの休息時間は原則として9時間以上を確保することが求められています。
厚生労働省HP 勤務間インターバル制度について (mhlw.go.jp)より

吉崎 誠二
不動産エコノミスト・不動産企業コンサルタント
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

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