CRE戦略

REALTY PRESS
CRE戦略の進化

2026年1月29日

CRE戦略の進化

 

村木 信爾
不動産鑑定士
明治大学グローバル・ビジネス研究科 兼任講師
MBA(米国ワシントン大学ビジネススクール)

 

第1部 経営上の投資用不動産の位置づけ

CRE戦略の議論をするとき、「CRE」に投資用不動産を含める考え方と含めない考え方がありますが、日本では投資用不動産もCREに含めることが多いので、本稿でもそれに従います。

事業環境の変化と不動産事業との親和性の変化

近年の社会、経済の大きな変化により、従来の「本業」が大きく変化してきている企業があります。少子高齢化による人口減少によって売上げが必然的に減少すると予測される企業(鉄道会社、新聞社等)、あるいは、技術革新によって、従来の設備、土地、建物が不要になった企業(大手通信業、鉄鋼業等)、また、消費者行動の変化により収益を伸ばすことが難しくなった業界で、かつ、好立地の不動産を持っている企業(百貨店、SCなどの商業施設等)などです。

鉄道事業のように創業時から本業と不動産事業との親和性の高い事業はありますが、近年では一般企業においても両者の関係性が変化してきています。繊維、ガラス、化学、鉄鋼などの素材業界や大手通信企業では、この変化を背景に、社内やグループ内に不動産開発、管理運営を担う部門を設ける企業が増加しています。さらに、不要となった生産工場の敷地をマンション用地へ利活用する動きも広がっています。たとえば、日鉄興和不動産やNTT都市開発などはその代表的な不動産開発会社として挙げられます。これらの企業で従来の「本業」と異なる不動産業を行うことは経営戦略の大きな転換を意味します。

「本業」、「コアビジネス」の再定義と不動産保有のあり方

従来のコアビジネスで不要になった保有不動産を、イノベーションによって新しいコアビジネスで利用できるのであれば、それに越したことはありませんが、その保有不動産が好立地にあり他の用途で利用できるものであれば、これを売却して他のビジネスにその資金を使うことや、その不動産を利用して不動産投資事業を始めることも選択肢になります。ただし、優良な不動産を保有しているという理由だけでは、不動産投資事業を始めるべきではありません。まず企業経営にとっての「本業」「コアビジネス」とは何かを再定義する必要があります。

不動産事業を行うことが、本業のコア事業とシナジーがあるか、事業ポートフォリオとして適切かどうかを検討し、その会社の経営戦略において不動産投資事業をコア事業の一つとして位置づけ、「プロとして」不動産事業を行う、という意識でその体制を構築することができれば、不動産事業を本業の一つとしてみてよいと思われます。たとえば、遊休地に商業施設を建てて賃貸する場合には、自らプロとしてその事業採算を検討すべきであり、信頼のおけるデベロッパーと組める場合でも事業判断を任せきりにするのであれば、売却の道を選んだほうがよい場合があります。

右肩上がりのマーケットにおいては、不動産ビジネスは、その他の「本業」における危機に対するリスクヘッジの役割を果たし、収益の安定に寄与しました。しかし、バブル期に副業として行った無謀な借金による投資用物件の購入により、バブル崩壊後倒産に至った企業は多く、これは現在の不動産投資事業者への大きな教訓です。

投資方針・投資基準の策定

不動産投資事業はプロとして行うべきですが、現実には、社内の人材に不動産業務のプロがいることは少なく、また、事業承継により不動産知識、経験がなくても、家族で先代から賃貸不動産を引き継いで、管理、運営していかざるを得ないケースも多くあります。保有不動産、運用資金は多くても不動産投資のノウハウに乏しい人の場合は、不動産仲介業者等から多くの投資用物件を紹介されても、自社の投資方針や、判断基準がなければ、投資判断に困ることになります。それを克服するために、経営者は不動産投資の基礎を学び、かつ信頼のおける不動産コンサルタントとともに、自社の経営方針、財務体質などをふまえた不動産投資方針や、判断基準をつくる必要があります。

投資方針とは、マーケット状況などの外部環境、自社の事業、予算、人員体制などの内部環境をふまえて、ハイリスクハイリターン型投資、あるいはローリスクローリターン型投資など、どのようなリスクをとるのか基本方針を決め、具体的にマンション、ビル、商業施設などのアセットタイプ、投資エリア、投資対象の利回り、築年数、建物構造などの基準や、管理、運営方針などを決めていく方針を意味します。

不動産コンサルタントの活用

ここでの不動産コンサルタントとは、売買案件、賃貸案件を紹介するだけの営業マンではなく、顧客の立場になって、顧客の言葉の真意をくみ取り、できるだけ定量化した投資方針や判断基準案を作成し、顧客が判断するための情報や判断のプロセスを整理して、実際に顧客の取引実行を支援できる人です。ときには、投資の可能性がある案件について分析したうえで、当該リスクをとるべきではないと助言することや、現存の投資から撤退することをアドバイスできる人でもあります。彼らは、不動産の売却により企業の負債を返済しROAなどの財務指標の改善を図ったり、資産や収益構造の最適化の観点から不動産売却によるオフバランスやセール&リースバックの提案を行うこともあります。

信頼できる不動産コンサルタントに出会えず、かつ経営者が不動産への関与を望まず、不動産投資事業を自社の柱にしようという熱意や思い入れがない企業の場合、不動産事業に踏み込むよりも、J-REITや株式投資等のほうが適しているといえるでしょう。

 

第2部 自然災害と所有者責任

近年、地球温暖化の影響もあり、自然災害が多発しています。不動産オーナー、テナントとしても他人ごとではありません。以下企業としての災害への備えについて述べます。

災害の種別

災害は、大きく地殻災害(地震、噴火)と気象災害(高潮、豪雨、暴風、豪雪)に分類され、これらが単独にまたは複合して、洪水、土砂災害、液状化、火災、建物の倒壊などの被害を及ぼします。そして、それらの被害が地域の衰退等の二次的な被害を及ぼします。また、災害そのものではありませんが、軟弱地盤や密集市街地等は、災害に対する脆弱性から、上記の洪水、土砂災害、液状化、火災、建物の倒壊の被害を重大化させます。

密集市街地は2012年から10年で半減しましたが、住民の高齢化、税金、取壊し・移転費用、権利関係が壁になり、現時点で解消にはいたってはいませんが、令和12年度までに概ね解消し、危険密集市街地における地域防災力の向上に資するソフト対策の実施率(約46%(令和2年度末))を令和7年度までに100%とする目標を定めています。

また、水没危険地域と指定されている地域で人口が増加していることや、ハザードマップの設置が遅れている自治体があることは問題です。

※出所:国土交通省「地震時等に著しく危険な密集市街地」について
https://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000102.html

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000086.html

 

「地震時等に著しく危険な密集市街地」は、平成24年10月時点で全国に5,745ha (197地区)、令和3年3月時点で全国に2,219ha(111地区)。

土地の工作物の占有者および所有者としての責任

民法第717条は、土地の工作物の設置・保存の瑕疵がある場合に占有者および所有者としての責任を定めています。

2020年2月5日、神奈川県逗子市内の分譲マンション敷地内にある高さ16メートルの斜面で土砂崩れが発生し、約60トンの土砂が崩落しました。この土砂により市道を通行中の歩行者が巻き込まれ死亡する事故が起きました。この裁判で、管理会社と担当者に不法行為責任を認めており(横浜地裁2023年12月15日判決)、同年6月に管理組合(区分所有者約50人)が総額約1億円を支払うことで和解しています。

「瑕疵」の判断は、物理的欠陥だけでなく、予見可能性や安全配慮義務違反を総合して認定されますので、占有者および所有者は必要な点検や補修を行う必要があります。

※民法第717条
第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
第2項 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
第3項 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

耐震性、火災、設備機器の不備

耐震性に関する規制は、1981年6月の建築基準法改正後の新耐震基準の他、1995年1月の阪神・淡路大震災、2004年10月の新潟県中越地震、2011年3月の東日本大震災、2016年4月の熊本地震、そして2024年1月の能登半島地震など大規模地震が起こるたびに、強化されてきています。2019年の建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)の改正では、大阪北部地震や熊本地震で、倒壊したブロック塀の下敷きになり死者が出たことから、建築物に付属する組積造の塀が「通行障害建築物」の対象に追加されました。これにより、耐震改修が必要となる塀の範囲が広がり、関連する基本方針も改正されました。判例においては、未曽有の大震災だからといって建物所有者の土地工作物責任は免責とならないとされています。(神戸地裁平成11年9月20日判決:阪神・淡路大震災関連)なお、既存不適格建築物は、耐震性や火災時の避難機能が劣っているケースが多くあるので、大きなリスクを負っていると考えるべきでしょう。

建築物を管理する企業は、一定規模の建物の火災対策として、防火管理者の設置、危険物の貯蔵や取り扱い、消防設備の整備や定期点検などの規制に注意しなければなりません。ホテルの火災で、ホテル経営者が防火管理上の注意義務を負っていたと認定された判例があります。(最高裁平成6年11月25日判決)

設備機器の不備も同様で、テナントの入居しているビルの停電によりコンピューターが停止して、大きな損害が発生した場合や、エレベーターが制御不能になって、テナントの従業員に死者が出たというような場合には、所有者、テナントとしての土地工作物責任、不法行為責任が問題になりえます。

ビルオーナーとしては、緊急時の対応についてできる限りテナントに説明し、通常の耐用年数の範囲で機器を更新しながら、メンテナンスを怠らず、所有者、管理者として最善の備えをしておく必要があります。テナントとしては、非常時の対応を事前に検討し、必要に応じて非常用電源の不足分のバックアップ対策を講じることが望まれます。

事業継続計画と事業継続マネジメント

自然災害に関して、賃貸人、所有者、管理会社が日頃から対処しておくべきことは、いわゆるBCP(事業継続計画)あるいはBCM(事業継続マネジメント)と呼ばれるもので、建物の耐震性、土地の地盤などの対策を取ることのみならず、避難訓練をテナント、所有者ともに交えて定期的に行うこと、テナントや来訪者らへの避難誘導、帰宅難民に対する対応、さらには、建物の損傷に対する迅速な機能回復等のシミュレーションを行ってこれらに備えることなどが含まれます。すなわち、テナント従業員や来館者の安全の確保を第一に、できるだけ早期に復旧すること、近隣企業等と助け合い、地域と連携することが求められています。

※BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)企業や組織が自然災害・大規模火災・システム障害・テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合でも、重要な事業を止めず、またはできる限り早く復旧させるための計画のこと。

賃借人としてのリスク、責任

通常、建物の耐震性に問題がある場合でも賃借人に補強の権利はなく、せいぜい賃料減額請求ができるのみです。賃借建物そのものや賃貸人の対応に問題があると認められる場合には、テナント企業は賃貸人に対し、早急な改善を要求し、無理な場合には解約という選択肢を考える必要があります。賃借人である企業が、建物に重大なリスクがあることを認識しながら従業員やテナント企業等関係者に損害が出たときは、民法第717条の土地の工作物等の占有者および所有者の責任や、企業の労働者に対する雇用契約上の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。したがって雇用主は、建物の安全性に十分配慮し、賃借する建物を選択する必要があります。

 

第3部 AI・ACTの発達、利用するデータの多様化

CRE戦略におけるIT利用の必要性

一定以上の企業不動産を保有する企業は、さまざまな契約や物件管理機能を持ち、キャッシュマネジメント等に用いる、CRE専用パッケージソフトウェアやインターネットを利用したASP(Application Service Provider)やSaaS(Software as a Service)等を用いることで、開発期間の短縮、業務の効率化、セキュリティの強化を行っています。

ITにより不動産情報を収集、データベース化して統括し、そのアウトプットを分析することにより、アセットマネジメント、プロパティマネジメント、契約管理、コスト管理、投資管理や、リスクマネジメント(特にCO2排出対応マネジメント)にも活用できます。また、財務・人事・顧客情報など企業の業務をサポートする業務ソフトと不動産情報を連携させることができればより効果的です。

※出所:澤野順彦「テナント企業の震災リスクマネージメント」(NBL No.956、商事法務)
※AI:Artificial Intelligence(人工知能)人間の知的な働きをコンピューターで模倣する技術全般のこと。
※ACT:Advanced Communication Technology(先進通信技術)従来の通信技術を超える高速・大容量・低遅延・高信頼性を実現するための先端的な通信技術の総称のこと。
※キャッシュマネジメント:企業の資金を一元管理し、入出金や資金繰りを最適化する活動やシステムのこと。
※ASP:Application Service Provider インターネット経由でソフトウェアやサービスを提供する事業者のこと。
※SaaS:Software as a Service インターネット経由でソフトウェアを提供するサービスのこと。

CRE専用ソフトウェア活用における留意点

組織にはそれぞれ適したITソフトウェアが必要であり、エクセルのワークシートの管理だけで十分な企業もあれば、CRE専用のITソフトを使うことが効率的な企業もあります。「組織に適した」というのは、組織に存在する不動産情報を十分扱え、かつオーバースペック(使わない機能が多いソフト)にならないようにすることです。収集した情報を何に使うか、ということをしっかり認識しながらITソフトを導入しないと、情報を使っていないことが情報入力者にわかり、その情報を更新することを怠るようになります。その結果、不要な情報ばかりが残り、結果としてソフトの利用が減り、廃棄されることにつながる場合があります。したがって、実際に利用する情報であるかどうか、定期的に見直すことが必要です。不動産関連ソフトウェアには、プロパティデータバンク社の「@プロパティ」などがあります。

収集するデータの留意点

ソフトウェアに搭載するデータは、もれや重複なく、利用するための最低限の情報を搭載して関係者が共有できるようにし、またデータは、他と比較評価が可能な単位で収集します。建築の分野では、国際コスト管理基準(ICMS)が普及し始めています。近年開示を求められているCO2の排出量、耐震性能や違法性等のリスクに関する情報の重要性が増しています。

※ICMS :International Cost Management Standard(国際コスト管理基準)建設プロジェクトのコストを国際的に一貫性・透明性をもって比較・評価するための標準化された分類システムのこと。

オルタナティブデータ、GIS (地理情報システム)の利用、建物・街の3D化

近年、携帯電話の移動データ、衛星データ、気象データなどのオルタナティブデータやGIS(地理情報システム)の活用がCRE戦略において拡大しています。

オルタナティブとは「代替の」という意味ですが、オルタナティブデータは、政府公表の伝統的なデータ以外の、いままで使われていなかった非定型、非金融のデータなどすべてのデータで、たとえば、携帯電話の移動履歴(位置情報)、衛星写真、気象情報、特許情報、POS売上データ、企業統計、交通量、カード利用情報、企業財務情報、株式情報、ニュースの記事などが含まれます。

GIS(地理情報システム)とは、デジタル化された地図情報の上に各種情報をレイヤーとして重ね、都市や河川・山岳など地図上の要素の相関関係や傾向を可視化することを可能にするもので、地図上の土地建物とそれに関係した情報(顧客情報・現地写真等)を結びつけて共有・管理でき、距離や面積の測定、エリアマーケティング、商圏分析やハザードマップ作成など災害対策などにも利用されています。

CRE戦略において、GISとオルタナティブデータを利用する例としては、以下が挙げられます。

1.商業施設の商圏分析

2.自然災害対策として、人流データを基に、警報・注意報による人流への影響分析、避難経路や避難行動の可視化

3.建築関係では、衛星データにより、建物の工事進捗状況を把握することや、新規建物を検知することやセンサーによる建物劣化診断

4.ファシリティマネジメントにおいては、センサーを用いて従業員の人流データを収集し、エネルギーの効率化や施設の効率的利用を図ることや、部門間のコミュニケーションの頻度を把握して、オフィス内部の机や部署の適正な配置を行い、従業員の満足度を高めること

また、以上のようなデータは不動産評価にも活用されます。

国土交通省は、地理空間情報の充実、オープンデータとして、GISデータ(国土数値データ)の整備、無償提供や統計情報のGIS化を行っており、情報連携の強化策として、建築、都市のDX化(建築BIM、PLATAU、不動産ID)、地籍調査成果のデジタル活用、人流データの利活用、不動産登記情報の活用を挙げ、地理空間情報を使い易い環境の整備のために、不動産情報ライブラリの整備を行っています。

以上のような新しいデータソースやGISなどのツール、そして近年発達が目覚ましい生成AIやAIエージェントの利用により、CRE戦略においても効率化の進展や創造的な取り組みが、加速度的に進んでいます。

※GIS:Geographic Information System(地理情報システム)
※POS:Point of Sale(販売時点情報管理)
※建築BIM: Building Information Modeling(建築情報モデル) 建物の設計・施工・維持管理に関する情報を3Dモデルに統合して管理する手法や技術のこと。従来の2D図面に比べ、形状だけでなく材料、構造、コスト、工程、性能などの属性情報を含むのが特徴。
※PLATAU: 「3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化プロジェクト」の名称。日本全国の都市を高精度な3Dモデルで再現し、都市計画、防災、スマートシティなどに活用されています。
※不動産ID:全国の不動産それぞれに番号を付与し、不動産IDを連携キーとして用いることにより、各不動産情報の名寄せや連携をスムーズに行えるようにするもの。

 

第4部 CREにおけるESG・SDGs

ESG・SDGsの潮流

ESG投資が初めて提唱されたのは、2004年に国連の報告書「Who Cares Wins」で、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3要素を投資判断に組み込むべきだと示されました。2006年に国連が責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)を制定し、不動産に関しては、同年責任不動産投資(RPI:Responsible Property Investing)、2009年にはグレスビー(GRESB :Global Real Estate Sustainability Benchmark)が創設されるなど、世界に拡がっていきました。日本においては2015年に国連で持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が公表され、パリ協定に参加した頃から、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF: Government Pension Investment Fund)などの機関投資家や国もESG投資に非常に力を入れ始め、不動産投資家にもその認識が拡がっています。

現在、一般企業、投資家、ファンド、公共団体など、すべての企業や組織は、自社だけではなく、原材料の調達先から販売先等サプライチェーンにおいてもESG、SDGsの配慮を求められ、また、自社のステークホルダーである投資家、株主、金融機関、監査法人等からも、企業活動のあらゆる場面においてESG・SDGsへの配慮を要請されています。

米国では2020年以降、ESGに対して若干逆風が吹き、2025年に第2次トランプ政権になってからは再びパリ協定から離脱し(2026年1月効力発生)、また、EUにおいても、2025年2月に提出された法案により、これまで出されてきた厳しい規制について、適用対象企業の縮小、適用開始時期の延期、報告要件の簡素化等が審議されているなど、若干足踏み状態ですが、2050年のカーボンニュートラルを目標から降ろしたわけではありません。

政府は毎年、省エネ住宅への減税など、減税策や補助金制度を設け、また、建物に関しては、建築物のライフサイクルカーボン(新築時から除却時までのCO2等)削減に取り組むなど、ESG投資を推進しています。

CRE戦略におけるESGの項目

建築セクターのCO2の排出量は大きく、全世界において約3分の1を占め、環境に大きな影響を与えています。以下ESG項目を列挙し、CREに関連する項目を簡記します。

1. E(Environment)について

1.省エネルギー性の向上(エネルギー・水利用効率の高い建築・設備導入とその効率的運営)

2.再生可能エネルギーの使用(太陽光発電などの再生可能エネルギーの発電、使用)

3.資源循環(廃棄物発生の予防と再生資源の利用促進:リデュース(廃棄物の発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再資源化))

4.生物多様性と生態系の保全と回復(緑化の推進や地域生態系に配慮)

2. S(Social)について

2020年のコロナ禍の影響で、健康、快適性、利便性、安全性等ビルの性能について注目されるようになりました。健康・快適性とは、空間・内装、音、光、熱・空気等の環境の他、リフレッシュルームの設置などです。利便性とは、駅や利便施設へのアクセス、コミュニケーションの取りやすい場所、机やパーティションの配置、情報通信環境の充実などでし。安全性とは、建物耐震性(PML等)、有害物質がないこと、水質、セキュリティ、コロナ対応(換気性など)が挙げられます。これらは人事マネジメント(HRM)の課題であり、このような性能を満たさないと、良い人材が採用できず、良い人材が転職してしまうきっかけになり、企業価値、不動産価値に影響します。

近年、水害、がけ崩れ、地盤沈下など自然災害が多発しており、CRE戦略においても適切なリスクの把握が求められています。土地・建物に対する物理的対策のほか、避難訓練などのソフト面、さらに事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)や事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)が挙げられます。

その他、S項目では地域社会・経済への貢献、超少子高齢化対応などが挙げられます。なお、国土交通省は主にS項目につき、2023年3月、『「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンス』をまとめ、ウェブサイトで公表しています。

3. G(Governance)について

コンプライアンス、内部統制など、一般に企業に求められるガバナンスのほか、不動産取引においては、複数の担当者や外部専門家によって売買価格や取引のプロセスに不正がなかったことのチェック体制があるかどうかなどが挙げられます。

※PML:Probable Maximum Loss(予想最大損失率)不動産投資や保険業界で使われる地震リスク指標。想定される最大規模の地震が発生した場合に、建物がどれだけ損害を受けるかを再調達原価に対する割合(%)

ESG関連不動産認証制度

ESG関連の主な総合環境性能評価・認証制度として、CASBEE、LEED、DBJ Green Building 認証があり、不動産会社・ファンド向け認証制度としては、GRESBがあります。これらの認証件数は年々増加してきていますが、たとえばGRESBは2024年、J-REIT市場では57社が参加し、その参加率は99.4%(時価総額ベース、2024年9月24日時点)です。

その他、建築物の省エネルギー性能表示のBELSや、国の省エネルギー住宅、省エネルギービルについての認証制度として、ZEH(ゼッチ)とZEB(ゼブ)等があります。

従来の認証が建物の環境性能に重点を置くのに対し、建物が人に与える影響に主軸を置いたWELL Building Standard(通称WELL認証)が2014年に米国で開発され、現在は世界のオフィスや医療施設、教育機関、商業施設などで導入が進んでいます。

※CASBEE:Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency(建築環境総合性能評価システム)日本で開発された建築物の環境性能評価ツール。建物の省エネ性能、環境負荷、室内環境の質などを総合的に評価。 国土交通省の支援で2001年に策定され、現在は自治体や企業で広く利用されています。
※LEED:Leadership in Energy and Environmental Design 米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運営する、環境に配慮した建物に与えられる認証制度です。建築全体の企画・設計から建築施工、運営、メンテナンスにおける省エネルギーや環境負荷を評価することにより、建物の環境性能を客観的に示すことができることから、米国を中心にLEED認証の取得が拡大しています。
※DBJ Green Building 認証:「環境・社会への配慮」がなされた不動産とその不動産を所有・運営する事業者を支援する取り組みとして2011年に日本政策投資銀行(DBJ)が創設した認証制度で、実際の認証業務は一般財団法人日本不動産研究所(JREI)が行っています。
※GRESB:Global Real Estate Sustainability Benchmarkグローバル不動産サステナビリティ・ベンチマークの略でしたが、2016年に、インフラストラクチャーにも評価対象が拡がったため、GRESB(グレスビー、グレスブ)と略語で総称されるようになりました。不動産セクターの会社・ファンド単位での環境・社会・ガバナンス(ESG)配慮を図り、投資先の選定や投資先との対話に用いるためのツールとして、APGやPGGMなどの欧州の年金基金を中心に2009年に創設されました。
※出所:https://www.gresb.com/nl-en/2024-real-estate-assessment-results/
※BELS:Building-Housing Energy-efficiency Labeling System 建築物省エネルギー性能表示制度の略称で、日本における建物の省エネルギー性能を表示する第三者認証制度で一般社団法人 住宅性能評価・表示協会が運営しています。
※ZEH:Net Zero Energy House 家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーのバランスをとり、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家のこと。
※ZEB:Net Zero Energy Building 快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間のエネルギーの収支をゼロにする建物。

ESGへの配慮が企業価値と不動産の価値に及ぼす影響

ESGの配慮は社会的要請であるというものの、企業にとってはそれが企業価値や不動産の価値に好影響を与えるのかどうかは大きな関心事です。

企業価値への好影響としては、環境規制や社会的批判による訴訟リスクを回避でき、安定的な経営につながります。また、環境・社会への責任を果たす企業として、消費者や取引先からの信頼を獲得しやすく、ブランド力が強化されます。さらには、ESGに配慮する企業は、長期的なリスク管理や持続可能性を重視していると投資家からの評価が向上し、機関投資家やESGファンドからの資金流入が増えます。

不動産価値への好影響としてはCASBEE、LEED、WELLなどの認証を取得した建物は、賃料や売却価格でプレミアムがつく可能性があります。またZEHや省エネ設備導入により、エネルギーコストが低減し、長期的な収益性が向上します。

ESG配慮のあるテナント企業は増加しており、そのようなテナント企業は安定性があり安定した賃料が得られる優良テナントでもあり、空室率の低下につながるといえます。

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