CRE戦略

REALTY PRESS
企業価値を高めるCRE戦略

2025年6月5日

企業価値を高めるCRE戦略

 

第1部 交通インフラ革新

新線開業による不動産価格の向上

企業が所有する事業資産の周辺交通インフラの拡充は、地価上昇の契機になるなど、CRE(Corporate Real Estate)戦略の観点からも、重要な外部要因となります。

新しい鉄道路線の開通や新駅の開業は、その周辺エリアにおける地価や人口動態、街のブランドイメージなどに影響をもたらすだけでなく、その沿線や駅周辺の都市構造・土地利用の方向性などを、変化させることも少なくありません。駅前エリアの再開発に伴う企業・店舗等の進出や新たな住宅の供給を促し、消費基盤や利便性の高まったエリアとして新たな評価を受けることになります。

2005年のつくばエクスプレスの開業は、沿線の秋葉原など東京都心へのアクセス時間の大幅な短縮を実現しました。千葉県流山市や茨城県つくば市といった沿線では、開業後の平成27年から令和7年の10年間での人口推移が、流山市で約4万人、つくば市では約2.8万人の増加※1となっています。

そのシンボル的存在となっている「流山おおたかの森」駅周辺エリアでは、駅前に大型商業施設やメディカルモールが整備されたため、行政が注力する子育て支援施策との相乗効果により若年ファミリー層の転入が増加しています。住宅地は令和4年から令和7年の3年間で平米あたり252,000円から370,000円※2と46.8%、商業地は令和2年から令和7年の5年間で平米あたり678,000円から990,000円※3と46.0%もの地価上昇を記録するなど、「流山おおたかの森」駅周辺エリアの現象は、新線・新駅の開業が、都心から郊外への人の流れと資本の移動を促進している例の一つと言えるでしょう。

また、2023年に開業した相鉄・東急直通線も注目を集めています。直通運転が開始されたことで、相鉄沿線エリアから都心部へのアクセスが向上、2019年にはJR埼京線への相互乗り入れが開始されていましたが、この開業によってさらに利便性が向上しました。

相鉄線の2023年度上期の輸送人員は前年同期比で8.9%増※4となり、沿線の「西谷」駅周辺を例にとると、都心への通勤利便性の向上に伴い都内の賃貸住宅の居住者がマンションを購入する事例もみられるなど、住宅地の公示地価は前年比プラス13%と神奈川県内の上昇率トップ※5となりました。

新線・新駅開業による都心マーケットへの効果

東京都心においても、新駅開業がマーケットへ効果を与えている事例があります。

2020年にJR山手線で約半世紀ぶりの新駅として「高輪ゲートウェイ」駅が開業し、同時に駅を中核とした大規模複合開発プロジェクトの「TAKANAWA GATEWAY CITY」が進行中です。

「TAKANAWA GATEWAY CITY」では、MICE対応施設、オフィス、商業施設、住宅、子育て支援施設などが整備され、職住近接の実現とともに、多様な都市機能が融合するエリアとなるべく再開発が進んでいます。その相乗効果として、周辺エリアでは商業地の地価が上昇するなどの影響が現れています。

同様に、東京メトロ日比谷線の「虎ノ門ヒルズ」駅も、56年ぶりの新駅として2020年に開業しました。駅直結の再開発ビルとして虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの竣工に先立ち、虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーなども建設され、このエリアで先行する虎ノ門ヒルズ 森タワーなどと高層オフィスビルが軒を並べる状況になっています。

さらに「虎ノ門ヒルズ」駅と地下通路で結ばれた、銀座線「虎ノ門」駅周辺では駅直結の虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業(2023年11月完成)と虎ノ門一丁目東地区第一種市街地再開発事業の2つの大型プロジェクトが進められています。これによって、さらに都市機能が向上することが予想され、近隣の商業地においても25~30%の地価上昇が見られます。

港区では他にも、2030年代半ばを目指して東京メトロ南北線「白金高輪」駅から「品川」駅までの延伸が、計画されています。リニア中央新幹線の始発駅であり、羽田空港への玄関口でもある「品川」駅と、六本木など都心部とのアクセス性をより強化することは、「人・モノ・情報の自由自在な交流の実現」という東京都の都市づくりのグランドデザインとして、推進するべき戦略の一つとなっています。

こうした交通インフラの発展は、該当エリアの利便性が高まるだけに留まらず、新たな人流などが形成されることによって、マーケットへの影響が現れることも視野に入れておく必要があるといえるでしょう。

出所:※1 千葉県流山市 茨城県つくば市 両市ホームページ 人口推移より
   ※2 おおたかの森南1丁目9-16:住宅地 国土交通省発表地価より
   ※3 おおたかの森東1丁目5-1:商業地 国土交通省発表地価より
   ※4 2024.03.20 読売オンライン掲載記事より
   ※5 2024.03.26 神奈川新聞掲載記事より

新規開業駅 近接エリア 地価推移

 

第2部 都市計画

建築基準法における優遇事例

再開発や、都市の基盤整備計画の策定等により、新たな価値創出がもたらされることもあります。これらによる都市インフラの変革よって、利便性が向上するだけでなく、容積率緩和などの優遇措置が受けられる場合もあるため、保有する不動産を取り巻く都市計画の策定や変更などを視野に入れて置くことは、CRE戦略上でも見過ごせないポイントになります。

近年の再開発プロジェクト等においては、単なる建物の建て替えやインフラのリニューアルにとどまらず、公開空地や公共施設の整備、街区全体の景観形成などを伴う大型複合開発のケースも増えています。

建築基準法では都市計画と連携した容積率緩和制度が種々設けられ、代表的な制度としては「高度利用地区」「総合設計制度」「特定街区」「都市再生特別地区」などがあります。

「高度利用地区」(建築基準法第59条)は土地の高度利用を促進し都市機能を発展させることを目的としたもので、敷地の統合や空地の確保により、容積率の緩和を受けられる場合があります。

「総合設計制度」(同第59条の2)では、一定割合以上の空地を有する500平方メートル以上の敷地では、歩行者が自由に歩行・利用できる公開空地を設けること等により、環境改善に資すると認められる場合、特定行政庁の許可により容積率や高さ制限が緩和されます。

「特定街区」(同第60条)では、有効空地の確保や、文化施設・コミュニティ施設の配置、住宅の確保など、市街地環境の向上や地域の整備改善に寄与する程度に応じて、容積率が割り増しされます。

また、「都市再生特別地区」(同第60条の2)においては、都市の再生を目的としたものであれば、従来の用途地域や容積率規制の枠を超えた自由度の高い計画が認められています。この制度は、主に東京都心部を中心とした大規模な再開発等で活用され、対象地区内に不動産を保有しているケースでは、従来を上回る規模や用途での再活用も見据えることが可能になります。

それらの他に「再開発等促進区」(同第68条)、「誘導容積型地区計画」(同第68条の4)などでは、道路・公園・下水道といったインフラの整備を前提として、容積率の段階的な引き上げが可能となるケースもあります。

これらの制度は、既存建物の建替えや集約を通じて、同じ面積でもより高い収益を得られるアセット活用施策に取り組むことを可能にします。

総合設計制度の事例

アパホテル&リゾート〈大阪梅田駅タワー〉は、関西の梅田エリアで西日本最大級となる客室数1,704 室の大型ホテルの開発事業で、令和5年2月1日に開業しました。大阪最大級のターミナル駅である大阪駅や梅田駅など複数駅・複数路線が徒歩圏内で利用可能な駅前立地であり、多くの飲食店が立ち並ぶ「曽根崎お初天神通り商店街」や梅田エリアの百貨店街に近傍しています。ホテル会員からも望まれていた大阪・梅田駅近での出店であるため、より多くの人に利用いただくために、大阪市総合設計制度が活用されました。公開空地・壁面緑化の他、耐震性貯水槽を設置することで容積率割増しを受ける等、土地の持つポテンシャルを最大限に活かして建築されています。

プライムメゾン新橋タワーは、4面を道路に囲まれた敷地の中で、建物周囲に空地を確保することで周囲の市街地環境を向上させることや、容積率の緩和による事業性の向上を目指し、総合設計制度を採用して建築されました。

計画当時、周辺は都心の中規模オフィスや集合住宅が立ち並ぶ地域で、多くの人々がまちを活気づけているが、比較的小規模な敷地が多く幅員の狭い道路も多いため、指定された容積率を使い切れていなかったり、オープンスペースが不足していたりなど、土地の有効活用が図られていない状況がみられました。

そこで、歩行空間の確保のため、道路に囲まれた東西南北の4面には歩道状公開空地を、メインの歩行者動線がある敷地西側には広場状公開空地を配置し、ボリュームのある緑化を行いました。敷地は周辺に開かれたみどり豊かなオープンスペースを創出し、災害時には一時的に避難できるスペースとして、防災機能も担っています。

出所:総合設計制度の手引き・事例集 令和6年7月 国土交通省 住宅局 市街地建築

 

第3部 産官学連携

投下額の増加が続く研究資金

近年では、CRE戦略における「産官学連携」の進展が重要なファクターとなりつつあります。国や自治体、大学といった公共性の高い組織と企業が連携し、研究開発や社会課題の解決を目的とした取り組みを進めることで、地域全体に経済効果が波及することも増えてきました。これらの拠点が設けられたエリアでは、企業不動産の活用範囲が広がる傾向も強まっています。

先端医療に関連する研究の深化や、AI技術の発展などを背景として、大学や研究機関を中心とした公的研究開発への投資は増加基調にあります。

特に科学技術イノベーションを国策と位置づけた「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021~2025年度)が策定されてからは、重点分野への集中投資が進められており、大学と企業、自治体が連携するプロジェクトには多くの公的資金が投入されるようになりました。

このような産官学連携プロジェクトは、単に研究成果を生むだけでなく、先端分野の人材育成や企業の技術力向上に寄与すると同時に、活動を支える場である不動産の市場にも影響を与えます。

例えば、研究施設、試験棟、コワーキングスペース、短期滞在用住居など、多様で利便性の高い用途を想定した不動産の開発が求められるため、企業にとっては保有資産を活用した用地の提供や施設整備のチャンスともなり、公的バックアップを背景とした研究施設の増加は、CRE戦略の観点で見てもアセットの価値を向上する良い流れであると言えるでしょう。

研究資金等受入額推移

 

研究費の潤沢化がインフラ拡充を促進

学校の活性化、インフラの発展、産官学連携によって、大学等に投下される研究資源が潤沢になるにつれ、その活動はますます活発化しています。中でも多彩な取り組みを繰り広げる慶應義塾大学において進められているいくつかの連携プロジェクトは、CRE戦略の観点で見ても注目に値する好例です。

神奈川県川崎市の臨海部、殿町地区に位置する世界最高水準の研究開発拠点※6「キング スカイフロント」では、慶應義塾大学医学部がライフサイエンス分野における研究・実証の拠点としてキャンパスを展開しています。臨床研究支援センターを軸として、製薬企業やバイオベンチャーとの共同開発、さらには国際的な医療ネットワークの構築などを進めており、これらの事例は産官学連携が好転している典型例と言えるでしょう。

また、同じく慶應義塾大学と日本航空との連携で、航空業界におけるカーボンニュートラルやSDGs対応をテーマにした研究活動も展開されています。学生や若手研究者の積極的な参加によってメンバーの若年化・多様化が進み、従来の大学の研究室と比べて社会との接点が多くなったため、より実践的な取り組みが可能となりました。

さらに、NTTとの産学連携プロジェクトでは、IT・デジタル技術を活用したスマートシティ構想やデジタルツインの実装など、未来志向の研究が進行中です。

こうしたプロジェクトはいずれも、大学キャンパスの枠を超えて、民間企業の施設や地域のインフラなどに軸足を置いて活動が進められており、その場で発現するニーズはインフラのスケールアップをもたらすなどCRE戦略との親和性が見て取れます。

こうして産官学連携の拠点が形成されると、その周辺では研究者や関係者が滞在・活動するためのインフラ需要が新たに生まれます。それらは、交通網の整備や宿泊・飲食施設の充実、医療・保育サービスの確保など、従来のオフィス街や住宅地とは異なる機能であり、それによって地域全体の土地利用や街の形が変化することも少なくありません。

活発な産官学連携の拠点となっているキング スカイフロント周辺は、かつてはいすゞ自動車の工場などが建ち並ぶ重工業中心の工業地帯でした。しかし、いすゞ自動車の工場閉鎖後に、キング スカイフロントの開発が進んで以降は、研究施設に加えて短期滞在型レジデンスや国際会議対応のホールが作られ、また多摩川スカイブリッジの架橋によって空港アクセスが劇的に改善したように交通環境などの整備が進み、新たな都市機能が生まれています。

このようなエリアに不動産を保有する企業にとっても、この新しい取り組みは、研究機関への協力拠点の設置やサテライトオフィス、ラボ施設運営への参入など、さまざまな不動産戦略を展開する余地を拡げつつあります。

産官学連携の広がりは、CREが「単なる土地所有」から「地域共創型不動産活用」へ転換していく契機になっているとも捉えられます。研究・産業・地域社会が交差するフィールドに、企業が資産を保有することの価値が今後ますます高まっていくことが予想されます。 

※出所 ※6 キング スカイフロントとは https://www.king-skyfront.jp/about/

 

第4部 企業の社会的責任CSR

CRE戦略の全体像

CRE戦略は、保有不動産の有効活用を目的とするにとどまらず、それを経営資源として企業の中長期的な競争力と将来の発展性を強化するものです。企業が自らの不動産を戦略的資産と位置づけ、業績向上を目指しその活用を進めることがCRE活動の第一歩です。

CRE戦略として着手されやすいケースとしては、遊休地や活性の低い不動産資産を売却するという施策があります。もちろん、その売却によって固定資産税を削減し、売却益自体を会社資産に組み込むという不動産管理業務上のメリットはありますが、こうした取り組みはCRE戦略の一つのアウトプットパターンに過ぎず、そうした資産を保持していない場合は、CRE戦略を推進できないということではありません。

経営資源としての自社不動産について正確に把握し、その情報をマネージメント観点で共有化をするとともに、その活用においての最適化を計り経営方針にもフィードバックするというサイクルを構築することがCRE戦略の全体像です。

そしてそのサイクルを推進していく際には、企業を取り巻く地域経済や都市機能の活性化といった、社会価値向上をも視野に入れていくことが必要とされます。

国土交通省によるガイドラインの公表※7によりCRE戦略というものが広く認知されるようになった初期段階から、CRE戦略には単なる経済活動における合理性だけではなく、社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)をも果たす役割が求められてきました。

先進的なグローバル企業では、企業活動自体にもこの取り組みは積極的に進められてきましたが、我が国においてもCSRの評価基準ともなるESG投資額は近年増大しつつあり、2023年の残高は645兆円に到達しています。

ESG投資残高  推移

 

CSRと一体化したCRE戦略

CSRとCRE戦略は、別軸にありCRE戦略の成果獲得の見返りのような形でCSRに取り組むように考えられがちですが、両者は密接に連携し合い、むしろ社会価値を創出することで経済的ゲインを獲得するというプロセスを辿るという方が理想的です。

そのため、企業活動の主要な拠点である不動産がCSRを果たす役割を発揮することが重要となります。例えば自社の活動拠点の社屋などの防災機能を高めることや、敷地周辺の道路の拡幅や緑地・歩行空間の確保により利便性や景観形成を改善することなどで、地域の安全性や活性を向上することでの社会価値を創出することが考えられます。こうした施策は資産価値の向上のみに留まらず、地域住民や自治体からのコーポレートブランド評価や社会的信頼の獲得といった成果を達成することも期待できます。

CSRと同軸にあるCRE戦略の実践においては、担当者にエキスパートスキルが不可欠となります。我が国におけるCRE関連の資格制度としては、認定ファシリティマネジャー(CMFJ:Certified Facility Manager of Japan)や不動産証券化協会認定マスター(ARES Certified Master)等が挙げられます。その具体的なスキルとは、高度な専門知識と高い職業倫理、優れた実務能力、市場の発展を担う使命感、幅広い人的ネットワークの構築力などです。 

これらのエキスパート主導の下、社内の経営層や事業部門からのニーズを的確に把握する一方、社外の自治体や不動産ベンダーなどからの情報収集を活発にし、業績向上と社会価値創出を両立させる取り組み、すなわち不動産だけの枠に捉われず社会を構成する一要素としての企業の経営資源の有効性を高める、いわば「全体最適」を志向するアプローチが重要視されています。

出所 ※7 「CRE戦略を実践するためのガイドライン」 国土交通省:平成20年4月28日公表

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