

2025年11月20日
深刻化する労働力不足を背景に、多くの企業による賃上げや初任給の引き上げによる人材獲得競争が活発化しています。その一方で、人材に対するコスト増という問題に直面しているのも事実です。こうした中、有効な人材を確保し、コスト構造を最適化する手法として寮・社宅制度が再び注目されています。
2023年の給与住宅(寮・社宅)戸数は130万2000戸※1と、30年ぶりに増加に転じました。これは寮・社宅が福利厚生の要素にとどまらず、経営課題を解決する戦略的なツールの一つとして再評価されていると言えるでしょう。
福利厚生の主要要素として、住宅手当を採用しているケースも多くありますが、住宅手当と比較した際に、寮・社宅が持つ大きなメリットは、社会保険料および税制上の優位性にあります。
住宅手当の場合は、給与所得として扱われるため、企業の社会保険料負担と従業員の所得税・住民税・社会保険料負担の双方を増加させます。一方、社宅制度は、従業員から一定額(賃貸料相当額の50%以上)の家賃を徴収することで、経費計上でき給与として課税されません。※2
これによって、企業は社会保険料の負担増を抑制することが可能になる一方、従業員にとっても税金の負担が軽減されることで、可処分所得が増加するというメリットが生まれます。手取りの増加は従業員の生活満足度を直接的に高め、定着率向上への強力なインセンティブとなるでしょう。
こうした寮・社宅の有効性はすでに具体的な成果として現れています。
大阪市の三和建設は、新卒の離職率が50%という深刻な課題を抱えていました。しかし、新社宅を整備しコミュニケーションが育まれるように工夫した結果、離職率が改善しました。これは経済的な支援に加え、若手社員の孤立を防ぎ円滑な人間関係を構築する場としての寮・社宅の機能が、エンゲージメントの向上に効果を発揮することを示しています。
また、労働力不足を補うための外国人労働者の確保においても、寮・社宅は効果的なインフラともなります。大きな障壁になりやすい住居問題を企業が解決することによって、人員確保の面で大きな優位性を築くことができます。
大手企業もこの流れを加速させています。マツダは、広島市に約800室の新寮を整備する計画を持っており、これは単なる住居の提供だけでなく、多様な人材が交流し新たな価値を創造する拠点となることが期待されています。寮・社宅の整備は、人材の採用と育成の両面に効果を期待し得る戦略的な投資なのです。
寮・社宅の戦略的価値は人事領域にとどまらず、企業経営の根幹にも関与し得る多面的な価値を持っています。
第一に、危機管理・BCP(事業継続計画)対策としての側面です。災害発生時に従業員の居住地が広範囲に分散していると、安否確認は困難になりますが、会社の管理下に従業員が集まって居住している場合は、所在把握が迅速化し、事業復旧のための人員招集も容易になります。従業員の安全確保という企業の社会的責任を果たすうえでも、その意義は大きいと言えるでしょう。
第二に、CRE(企業不動産)戦略としての活用です。社有の遊休地などを活用して社宅を整備することは、資産の有効活用に繋がり、バランスシートの健全化にも貢献します。
また、将来的な建て替えや用途変更、売却など、柔軟な財務戦略を可能にし、質の高い寮・社宅であれば、従業員を大切にする会社というブランドイメージを社内外に発信することで、企業の社会的評価を高める効果も期待できるでしょう。
人材獲得競争が激化する中、寮・社宅制度はコストを最適化しながら従業員満足度を高め、人材確保・定着に繋げる新たなソリューションを提示しています。それは福利厚生面以外の、財務、人事、危機管理、資産戦略といった複数の経営課題を同時に解決する極めて合理的な一手となり、人材不足の時代を打開し、持続的な成長を続けるためにも、寮・社宅という選択肢を未来への戦略的投資として再評価するときが来ていると言えるでしょう。
※1 出所:総務省統計局「令和5年 住宅・土地統計調査」
※2 出所:国税庁タックスアンサー「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm

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