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グリーンリース契約

 
2020年5月14日

「環境性能」で既存ビルの価値を向上させるグリーンリース契約

環境に配慮したESG投資が今後ますます加速する2020年代。ビルオーナーもテナント企業も、オフィスの環境性能や従業員満足度を高めることを共通の目標として協働することが求められています。

環境不動産でなければ選ばれない時代

世界経済フォーラムがダボス会議に先立って発表した「グローバルリスクレポート2020」によると、今後10年間に発生する可能性の高い世界的リスクは「異常気象」「気候変動緩和・適応への失敗」「自然災害」など、上位5位すべてを環境要因が占めています。

2020年はコロナウイルスが世界経済に大打撃を与えていますが、感染症リスクよりも更に長期的スパンでじわじわとダメージを及ぼす環境リスクが抱える深刻度もまた計り知れません。

そうした情勢下、持続的な成長をめざす企業にとって、環境・社会・ガバナンスの観点を軸にしたESG経営はすでに必須戦略のひとつであり、更には環境対策に積極的な企業が投資対象として選別される時代でもあります。

不動産業界においても、環境性能の高い不動産に対するESG投資が世界の主流となっており、2019年4月に国土交通省が発表したESG不動産評価についてのアンケートによれば、下のような結果が出ています。
・投資家がESG投資を行なう理由の第1位は「入居者や入居企業がESGを重視して入居を選別しているから」。
・ESG不動産とそうでない不動産を比較して許容できる家賃上昇率は「4〜6%」が最多。

最新の大規模ビルでは、アメリカ発の環境不動産認証制度「LEED」や日本の国土交通省が主導する「CASBEE」などのグリーンビルディング認証を新築時に取得し、先進的な企業をテナントに呼び込んでいます。

しかしこうした新築のビルディングに比べると、既存建物の環境性能を向上させるインセンティブは高いとはいえません。特に中小ビルは大規模ビルに比べて全体的に築年数が高く、ストック化の傾向にあります。ビルオーナーにとって、確実な賃料アップや稼働率向上の見通しが立たないかぎり、自力での設備改修には二の足を踏むところでしょう。

一方、テナント企業側も、グリーンビルディングへの入居を要望していても、最新のオフィスビルの高額な賃料や床面積などで条件が合わず、設備面に不満を抱えながら現状にとどまっている例が少なくないようです。

負担とメリットを分け合うグリーンリース

このような、オフィスビルの環境性能をめぐるビルオーナーとテナント双方の課題を解決する方法のひとつが、グリーンリースです。

グリーンリースとは、ビルオーナーとテナントが協働して環境に配慮した改修や運用を行なうために自主的に結ぶ契約のことです。たとえば、専有部の照明や空調などをエネルギーコストの優れた設備に切り替える場合、イニシャルコストである工事費用はビルオーナーが負担して、それによって抑えられたテナント側のランニングコストの一部をグリーンリース料としてオーナー側が収受し、工事費用を回収していきます。ビルオーナーはテナントとメリットを分け合いながら、ビルの価値向上に取り組むことができます。

また、改修時だけでなく、テナントが省エネ改修を行なった場合の原状回復義務の免除や、エネルギー消費量の情報共有など、運用面の改善や明文化もグリーンリース契約に盛り込むことができます。

グリーンリース契約が初めて実用化されたのはオーストラリアです。連邦政府が積極的に導入を図り、2010年、政府機関が民間ビルにテナントとして入居する際にはグリーンリースが義務化されました。アメリカでも2012年からエネルギー省がグリーンリース契約書のひな形を公開、グリーンリースに貢献したビルオーナーの表彰を行なってきました。

日本では、2016年に国土交通省がグリーンリースの普及促進のための手引書「グリーンリース・ガイド」を公表。環境省や東京都も補助金・助成金による促進事業を行なってきました。主だった導入事例としては、中規模オフィスビルを主要ポートフォリオとするケネディクス・オフィス投資法人が、千代田区に所有する9階建てビル「KDX秋葉原ビル」(1973年竣工)の一部テナントとグリーンリース契約を結び、テナント専有部の照明のLED化を実施、また大和証券オフィス投資法人も「新宿マインズタワー」(1995年竣工)に入居するIT系企業のテナントとグリーンリース契約を交わして同様のLED化を実施した事例などがあります。

ESG価値で優良テナントを引きつける

グリーンリースの導入事例に共通するのは、テナント企業側の意識の高さです。海外で快適なオフィスやコワーキングスペースが開発された背景には、優秀な人材を確保して企業の知的生産性を高めるという目的がありました。日本でも、従業員満足度の観点からオフィスを選ぶ企業が増えています。環境負荷の低減はもちろんのこと、従業員が快適かつ健康的に働けるかどうかを重視し、ビル側にもそのための改善を求めます。そうしたテナントにとって、グリーンリース契約は前向きな施策と受け止められ、良好な関係を長期的に築くことにつながります。

はからずもコロナウイルス対策によって、リモートワークの推進や会議の低減が進み、働き方やオフィスのあり方がドラスティックに見直されています。それに関連した集約型オフィスから分散型オフィスへという流れに、既存の中小ビルのチャンスが増加する余地が生まれそうです。その決め手の一つとしてもグリーンリースは、環境性能や快適性などESG的付加価値を高めるための有効な選択肢といえるでしょう。

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