円ほどではありませんでしたがユーロもポンドもかなり安くなり、アメリカ人のヨーロッパの不動産への投資が増えました。イギリス向けやフランス向けは当然でしょうが、ポルトガルの不動産への投資も目立ちます。この国の何が魅力なのかを見てみましょう。
ポルトガルのGDPはEU加盟27か国中で15位前後、ユーロ国債危機の際の問題国の頭文字をまとめた「PIIGS」の「P」であり、経済力は強くありません。しかし16-17世紀には南蛮貿易を繰り広げ、極東の日本にまでもやってくる海洋大国という時代がありました。首都リスボンにはその栄華を刻む石造りの建物群が多数、往時の姿からメンテナンスも行き届かないままの古色蒼然さで残っていました。
ポルトガル政府はこれらの石造りの建物群を磨き上げると同時に街並みにも手を加え、リスボンをプラハと似た中世を想い起こすノスタルジックな街とし、大評判となりました。
観光のもう一つの成功例はリスボンに近いエリセイラという海岸の町です。「ラグジュアリー層も呼び込むサーフィンの聖地」として、僅か5年で大きく変貌しました。
アメリカ人が不動産を旺盛に買っているのはポルトガルの最南端のアルガルベ地域です。元々、イギリス人やドイツ人に人気の観光・保養地であり、景観に恵まれ美しい砂浜も多く、また温暖で生計費が安い事もあって引退後はここで定住する人が以前から多くいました。
アルガルベでは売り物件が少ない中で購入希望者が増加、価格は3年前の倍へと高騰、海沿いの別荘では1,850万ユーロ(26.6億円)という高額の成約までありました。価格が今のように高騰しても、この辺りの別荘はまだアルプスや南フランスの別荘より安いのです。
話をもう二点、追加します。ともに「ビザ」に絡むものです。
一つはポルトガルの「黄金ビザ」がとても魅力的だという話です。黄金ビザとは「一定額以上の投資そのほか幾つかの条件を満たせば取得できる永住ビザ」というビザのニックネームで、世界で約30か国にこの制度があります。ほとんどの国で「不動産の購入」で「一定額以上の投資」の要件を満たせます。ポルトガルの黄金ビザはその他の要件も比較的緩く、しかもこのビザはEU諸国でも使えるという点が非常に魅力です。「不動産よりもEU内で通じるビザの方がよほど貴重だ」という人は多くいます。世界にはお金さえ払えば簡単に黄金ビザを取得できる国も多いのですが、こういう国のビザは持っていても役に立ちません。
もう一つは「デジタル・ノマド・ビザ」というビザで、遊牧民(ノマド)のように各地を移動しながら働く人を想定したものです。デジタル・ノマドは技術的には簡単なのですが、労働ビザの問題(不法就労)やどの国が給料に課税・源泉するかといった問題などから、手続きが非常に面倒です。ポルトガルはこの新しいビザを導入して、問題の一部を解決する予定です。
(ユーロ=145円 2022年12月12日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清