中国で「住宅ローン返済ボイコット」が広がっています。中国の新築マンションは大半が図面売りで、契約時にローン融資も実行されます。購入者はまだ建築工事中である段階からローンの返済が始まることになります。
ところが多くのデベロッパーで経営状況が悪化し、資金難から建築工事が何か月も止まっています。どう見ても工事再開の気配がないのに毎月のローン返済を続けることに怒った購入者達が団結し、「住宅ローン返済ボイコット」という挙に出たわけです。
話の大本は鄧小平の「先富論」です。国全体としては大変豊かになりましたが、昨今は極端な「貧富の差」が目立つようにもなりました。習近平は「共同富裕」により「先富」の富の平準化を考えているように見えます。
「貧富の差」という点で、不動産には大変分かりやすい面があります。
マンションを投機目的で購入する人が増えましたが、習近平は「住宅は住む為の物であり投機の為の物ではない」という意味の「房住不炒」を主張しました。
デベロッパーへの締め付けの中で最も効いたのは、「3つの指標がレッドラインを割るデベロッパーには銀行融資等をしない」という規制で、「三道紅線」と言います。デベロッパーのデフォルト数は30社強となり、今後、240万戸以上が予定通りには竣工しないだろうとみられています。
さて本題の「住宅ローン返済ボイコット」ですが、最初に起きたのは陶磁器で有名な市である景徳鎮です。ここでの動きが800km離れた鄭州に飛び火して一挙に拡大しました。SNS上に専用のプラットフォームが開設され、全国各地の同様な状態の事例がこのプラットフォームにどんどん書き込まれ、僅か4週間で100都市・326プロジェクトがボイコット対象に加えられました。その後、政府がこのSNSを検閲・削除したため、現在のボイコットの状況は分かりません。
怒った人が集団でデベロッパーの販売事務所へ押しかけ、業務の妨害をしています。水道・電気もない未竣工の建物に引っ越し、ポリタンクの水で暮らしている購入者も現れています。
工事業者や納入業者の中には、銀行からの借入金は返済しないといい出している会社があります。デベロッパーからの工事代金が貰えないのでお金がないというのです。既購入者の中にも住宅ローンを払うのは止めるという人が出てきそうです。買ったマンションが値下がりしているからです。こうなると「ピラミッド」の全体が崩れかねません。
政府は2,000億人民元(4.1兆円)の特別融資を計画中です。停止した工事を再開して完成させ、購入者への引き渡しを実現させるための資金です。
(人民元=20.7円 2022年9月14日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清