アメリカの「ホテル」の状況を、まず新型コロナが本格上陸した2020年からざっと見てみます。ホテルはコロナの当初段階から最も大きな打撃を受けた不動産セクターです。
しかし本格上陸から数か月後にはもう「近場への日帰り旅行や短期の旅行者が出現している」と報じられました。東京で言うなら箱根や富士五湖といったエリアです。2020年の秋以降は「SUVをガソリン満タンにして回れる範囲の近場」を何か所か周遊する旅行が増えました。
その後、遠方への旅行が増加、現時点ではホテルのリゾート需要は完全に復活し、2022年の夏はホテルもレンタカーも飛行機も大変な大混雑になる見込みです。これは後述します。
旅行先での支出は、「モノ」へではなく「エクスペリエンス(体験)」へ、が大きいという傾向が顕著です。ホテルや滞在先でのくつろぎやレストラン・食べ歩き、中小規模のミュージアムめぐりやコンサートといった「エクスペリエンス」への支出の方が大きいのです。
一方、ビジネス出張はレジャー旅行よりも復活がかなり遅れていて、いまだに完全回復となっていません。2022年5月の回復率は新型コロナ前のピークの61%との事ですが、最悪期ではこれは25%でした。「Zoom面談よりもリアルな面談の方が優れている」との認識が広まっていますので、ビジネス出張の完全回復はもう時間の問題でしょう。
興味深い事に、稼働率がまだ回復していない段階で、ホテルでは収益性がコロナ以前を上回りました。運営コストの削減効果と宿泊単価の上昇が貢献しています。「宿泊単価が上昇した」というのは意外ですが、価格競争が「休戦状態」になっているのではと想像されます。
新しいタイプの宿泊をいくつか見てみたいと思います。
「ブレジャー」は「ビジネスとレジャーを同時にこなす出張(旅行)」の意味で使われ始めました。「地方の拠点へ出張して指示を出し、いったん本社に戻って再度出張をして成果をチェックする」というのを、「現地で滞在し続け、空いた時間で周囲のレジャー旅行をする」というスタイルに変更するイメージですが、今では「ブレジャー」は多様な意味で使われています。
Airbnbは相変わらず非常に動きが素早く感心します。周遊旅行の需要を掴むため、「二つの宿泊施設を連続して一括で予約する検索」を用意し、スキーやサーフィンのように「旅行の目的を入り口とする検索」も用意しました。両方とも手間をかければ今まででもできたわけですが、新しい方法なら「あっという間」に検索から予約まで完了しそうです。
直近の5月末時点の状況では、夏のレジャー旅行の予約はもう過熱しています。例えばあるカップルは遠隔地での結婚式のためにかなり前から航空券を予約していたのですが、エアラインから予約のキャンセルが告げられてしまいました。あわてて他の航空券を予約しましたが再度のキャンセルの不安は消えず、最悪の事態に備えて「札幌~鹿児島」相当の距離をマイカーで往復する覚悟もしているそうです。
大手の各ホテルチェーンはそれぞれ独自の工夫を凝らした集客を試みているのですが、この夏はそれどころではない、需要に応えきれない状況になりそうです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清