中国のマンション業界が大変な苦境にあります。代表格の恒大集団は負債が3,000億$(34.8兆円)、仕掛かり中の物件が223都市に778件、未引き渡し戸数が140万戸です。工事は一時、全面的に停止しました。他の大手デベロッパーも販売戸数は前年比で4割減です。
中国では、デベロッパーはマンション用地を市が行う公売で入手します。マンションの人気は根強く、価格はどんどん引き上げられていきました。その結果、安いうちに契約したいという購入者と早く資金を手にしたいデベロッパーの思惑が一致、「図面売りでの契約締結時に代金全額を払う」という独特な販売慣行が定着しました。デベロッパーは得た売買代金を早々といろいろな物に使い、建築工事のための資金は必要になった時に別途、様々な手段で調達することになります。
経済全体における債務の膨張を懸念した当局は、銀行に対してデベロッパーへの融資制限を設け、デベロッパーは資金繰りに窮するようになり、恒大集団が経営危機の表面化の第一号となったわけです。その後、デベロッパー多数がこれに続きました。このままでは目もくらむような人数の図面売りの購入者や代金が支払われていない工事関係者等に影響が及びかねません。社会混乱が起きないよう、当局は総がかりで「販売済みのマンションを竣工させること」を最優先にして恒大集団問題に対処しています。
現在、この問題は次のステージに進んでいます。
デベロッパーは市の土地公売への参加を見送っています。ところが市の財政は土地売却収入がないと成り立ちません。主要各市の歳入の土地売却収入への依存度は平均40%もあるのです。
最近の公売の落札者には「融資平台」と呼ばれる、各地の市役所の外郭団体が非常に増えています。「融資平台」は、元は公共工事の建設の際に資金を市がオフバランスで借り入れるための外郭団体でした。しかし今は単に市がオフバランスで資金調達するためのビークルに近くなっています。これらの銀行借り入れには市が(暗黙の)保証をしているので、「市が土地を売り、それを市自身が買っている」のと変わらず、長続きするはずがありません。
他にもいろいろなほころびが出てくるでしょう。楽観的な人は、中国当局の政策能力は非常に高いので今までのように今回の危機も乗り切るだろうとしています。中国の4大銀行はすべて国有系で、当局がこれらを指図どおりに動かせる点も非常に強みです。
しかし「上に政策あれば下に対策あり」という格言通り、中国にはどのような政策もしばらく経つと「絆創膏」と化してきた歴史があります。その度に一回り大きな絆創膏を上に貼る、即ちバランスシートを膨らませることで問題を封じ込め、先送りしてきました。
今回も巨大な絆創膏で何とかなるのか、あるいは大混乱に陥るのか、まだ読めません。
(ドル=116円 3月3日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清