「リモートワーク」には「在宅勤務」や「サテライトオフィスでの勤務」も含まれますが、以下は「遠隔地に住んでオフィスには出向かない」という仕事のスタイルに限った話です。
サンフランシスコから3時間のリゾート地、タホ湖周辺では以前から少数のIT関係者が住み、今で言うリモートワークをしていました。彼らのライフスタイルが羨ましがられていたのですが、今回の新型コロナを機に自分もぜひという人たちがどっと押し寄せています。
ニューヨークの周辺でリモートワーカーたちが多く集っているのは東のハンプトンズや北東のコネティカット州の郊外の町の他にもいくつもあり、これらは「Zoomタウン」と呼ばれています。フロリダ州は高齢者が引退して住むところとしての定番ですが、今、急増しているのは、子連れの若い夫婦と節税のために税務上の居住地だけを移転するウルトラリッチの転入です。前者にはリモートワーカーが含まれています。
カリブ海のビーチが美しい国、バルバドスはリモートワーカーの誘致に積極的で、1年間有効の特別なビザを新設しました。年収5万$(520万円)以上等が条件です。同国以外でもリモートワーカー的な働き方を優遇するビザがある国は世界に約10か国あります。
アメリカにはリモートワークで田舎に住み生計費が安くなるなら、そのぶん給料を下げてもよいだろうとの議論があります。IT不動産のレッドフィンは全米を3つに分け、最も生計費が安い地域ではニューヨークやサンフランシスコより給料を20%下げるとしました。
議論を大上段に構えれば、もともと「IT革命」「知的労働革命」といった変化が徐々に進んでいたところ、新型コロナでこの変化が一挙に浮き彫りになったということになります。
このような革命の進行速度ですが、「電力革命」の時は電力利用のめどが立ってから工場が「電力用」に代わるまで数十年かかりました。水力や蒸気のための設備といったレガシーの取り壊しが躊躇されたためです。この間、「電力技術者」には仕事はありません。
リモートワーカーたちも今こなしている仕事が終わった後はどうなるか分かりません。「革命」に早く乗りすぎると、上記の電力技術者と同様なはめになりかねないのです。「毎日サーフィンしている人間に仕事なんか出せるか」というのは日本ではまだ、自然な心情です。
興味深いのはインドで起きている状況で、多くの女性が大家族の中、自宅で育児や家事をしながら欧米企業のバックオフィス業務を行っています。「レガシー」が少ないぶん、あっという間にインドはリモートワーク社会を実現するかもしれませんし、さらには日本のリモートワーカーの仕事をインターネット経由で格安な料金で奪ってしまうかもしれません。
(ドル=104円 2021年1月8日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清