今年の4月に「オーストラリアの住宅価格が大幅下落」とご報告いたしましたが、その後、立ち直って順調な回復軌道に入りました。シドニーとメルボルンを中心に近況をご報告いたします。
振り返ると4月、5月が底でした。この時点では価格は前回のピークであった2017年との比較で14%下落していたのですが、それでも2012年(2008年のリーマンショック後の大底)と比べて40-50%も高い状態で、もう一段の下落もありうるかとも思われていました。
転換点は7月の数字が発表された8月です。2ヶ月連続して前月比で価格が上昇したので、市場は手ごたえを得ることができました。この上昇傾向はその後、一段と強まり、シドニーでは10月の時点で以前の2年間分の値下がりを取り戻し、上昇率もかつての住宅価格急騰時並みになっています。メルボルンでもかなり上昇しています。
過去のチャートを見てみると、住宅価格は2017年秋から前月比でのマイナス基調に入って下げ幅はだんだん大きくなり、2018年暮れに最大となっています。以降、下げ幅は徐々に縮小に入り、2019年7月にとうとうプラスに転換したわけです。
要因的には「中央銀行による利下げ」「モーゲージ融資規制の緩和」「総選挙での野党の予想外の敗北」を上げるのが一般的ですが、そのほかの要因も指摘しておきます。
シドニーやメルボルンでは一時、中国人による購入が多発し、住宅価格が急上昇しました。政府はこの行き過ぎを懸念して外国人による購入を規制した結果、中国人の購入が激減したことも住宅価格を下落させました。今はこの影響が一段落したように見えます。
また約2年にわたる住宅価格の下落で、オーストラリアの人の間に「もうそろそろ」という気分が広まっていたとも想像されます。
オーストラリアの中古住宅は世界的にも珍しい慣習で売られます。売却希望者は最低売却希望価格を示して、日にちを決めて自宅の前で「オークション」を行うのです。これには売り委託を受けた業者や買い希望の人はもちろん、近所の人やさらにはやじ馬まで集まる、一種のスペクタルになります。マーケットの状態を非常に草の根的に実感しやすい慣習なので、「もうそろそろ」という購入者の買い意欲を高めた可能性があると思います。
ちなみにオークションでは最低売却希望価格に達する人が現れず、流れることも多々あります。オークションの成立率は住宅市場の強弱を測る有力なバロメーターであり、6月に60%を超えたあたりでムードが変わったわけです。今は入札合戦で価格がつり上がるケースも出ています。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清