アメリカの戸建ての敷地面積は典型的な物で300-400坪くらいではないかと思います。これに60坪程度の建物を乗せても家の裏側にかなりの空き地ができます。「バックヤード(裏庭)」と呼ばれる部分で、フェンスで仕切られていることもあり、草や芝生の上にデッキチェアを置く家もありますが、ほとんどのアメリカ人はこの空間を意識していませんでした。何かをしようと考える対象ではない、ただの「空き地」だったのです。
新型ウイルスにより「バックヤード」へのこの認識が一変、今年の春先から夏の始まり頃までの間、どう活用するかが、突然各家庭での最重要議題になりました。
最初はテントから始まりました。バーベキューセットやファイヤーピット(焚き火台)も購入、夜はここで寝て気分はプチ・キャンプです。トイレやシャワーは家にあるので何の問題もありません。しかし夏が近づくと日差しが強烈になり、シェードを張って日陰にしてもまだ暑く、さらに「虫」が増えて「飽き」も出て、このテントブームは下火になりました。
取り止めた夏の旅行代や中止になった子供のサマーキャンプ参加費が浮きました。このお金で、空気で膨らます滑り台やプール、トランポリン、ブランコ、シーソーなどの遊具が購入され、バックヤードに設置されました。大人向けの商品では屋外用の扇風機や霧のスプレー、シャワー(家の中からお湯を引くことも可能)、滝の音と小鳥のさえずり声がセットになった装置などが人気でした。ポータブルな映写機とスクリーンで、屋外シアターとしゃれこむ人もいました。
もっとお金がある人は、屋外キッチンやプール、温水露天風呂、カバナと呼ばれるあずま家を専門業者に発注しました。
バックヤードにDIYで組み立てるホームオフィス用の書斎キットも販売されました。一番小さな80sqft(約2.2坪)タイプのキットは5,000$(53.5万円)で、ある人は少し大き目のキットにエアコンやPC、机等の書斎機能一式をDIYで備えつけたら、4週間かかり31,000$(332万円)で完成したそうです。
ZOOMの画面に子供や犬が入りこむというハプニングは、昔は微笑ましかったのですが今はがらりと変わっています。泣き続けた子供のためにオンライン会議に支障が出たとして、マネージャーが親に対して解雇を言い渡したケースまで出ました。従ってこんな書斎キットも必要なのかも知れません。
造園業者は「トマトの苗を植えたいのだがどちらが上か教えてほしい」というような超初心者からの問い合わせにも対応し、クリニックでは慣れないDIYでの怪我の手当が増えています。
私見ですが、こういう話に飽きるのは時間の問題かという気がします。それはさておき、今年はアメリカでバックヤードが熱くなったわけです。
(ドル=107円 2020年8月13日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清