2022/1/28
― 今回お話をお伺いするケースはとても思い出深いプロジェクトだということですが。
山口 30歳のとき仲介未経験でソリューション事業本部に配属された際、当時の上司に『3年間で一人前にする』と言われ鍛えていただきました。それから3年目の一人前になるための総仕上げともいえるタイミングだったこともあり、また実務においてもタフな出来事が多い思い入れの大きいプロジェクトでした。
― ご用命をいただいたのはどのような企業だったのでしょうか。
山口 売主様は基幹産業を担う大手企業の子会社の一つで、都区部所在のオフィスビルを所有・運用されている不動産管理会社です。バブル景気末期に計画・建築されたもので、大手不動産会社がマスターリースしていましたが、契約更新は行わない方針であったため、ビルを売却し、さらに売却後は会社を清算するというご相談でした。
売却価格は100億円を超えると目されており、このプロジェクトを完遂した時には、営業として大きな成長ができたと思います。
― 100億円超のオフィスビルの買主様を見つけるのは、素人考えでは簡単ではないように思いますが…。
山口 このクラスの不動産となると、取得できる購入者は資金力のあるデベロッパーや不動産ファンドなどのいわゆるプロ事業者に絞られてきます。当時はリーマンショックの影響が一段落したタイミングで、不動産市況も上向きの兆しがあった時期であったことも幸いし、買主様を探すことにそれほど不安はありませんでした。
それ以上に気を配ったのは、不動産取引の経験が全く無い売主様への丁寧な説明と様々なサポートです。三井不動産グループとしても長年お付き合いさせて頂いている大切なお客様だということもプレッシャーを感じました。
山口 売主様の親会社はガバナンス体制がしっかりした企業でしたので、売却に至る経緯や優先交渉権者決定までのプロセスをご理解いただくことに特に苦心しました。会社の清算を伴う不動産売却だったこともあり、売却活動の進捗に応じて親会社への報告と意思決定をしていただく必要がありました。そのため売主様が親会社への説明に使用される資料作りのサポートも重要な業務だと思い、しっかり取り組みました。
売却に至るまでは、社内報告や打合せ、役員会議、経営会議、グループ会社間の会議、社外のステークホルダーとの調整など、様々なプロセスを経る必要があり、その時々で様々な課題にぶつかりました。しかしその都度、売主様や社内外の関係者と協力しながら解決をすることができました。この経験のおかげで「この先どんな案件が来ても大丈夫」と思えるようになりましたね(笑)。
この案件は入札による売却を提案したため、入札を成功に導くための準備も重要でした。入札の実行にあたっては、先に申し上げた通り“不動産のプロ”を中心に入札参加を呼び掛ける戦略を基に営業活動を行いました。私が所属していた部門でお付き合いのあるデベロッパーに加え、ファンド担当部門や国際事業本部とも協力し、国内・海外の不動産ファンドへも物件を紹介し、結果的に外資系の不動産ファンドへの売却を決めることができました。
― これらの「売却戦略」は、山口さんが考えて実行されたのですか?
山口 大方針は、私を3か年計画で鍛えてくれた上司が立てました。当時の私はまだ経験が浅かったので上司のサポートと社内外のバックアップがあってこそ成し遂げられた仕事で、且つこの経験で私の営業のスタイルの“原型”ができた実感があります。
この取引をまとめる中で用意した説明書類や提案資料は膨大な量で、営業のノウハウの大半を身に着けることができたと思います。また、多岐にわたる業務を一気通貫で経験できたことで、このときに作成した資料を「フォーマット」として別の取引に利用したり、汎用化したフォーマットを社内で共有することで「組織のノウハウ」として蓄積する取り組みも行っています。
企業様が保有する不動産は種類・規模・立地も様々なので、「不動産を目利きする力」が基本的能力として求められます。しかしこれは最低限の能力でしかなく、もしかしたら近い将来にはAIに取って代わられてしまうスキルかもしれません。
一方で、企業様の不動産売買において重要な仕事の一つが、「各企業のご担当者様が所属する組織で業務を遂行しやすくするためのサポート」であると考えます。不動産仲介の業務は「人間力」が試される仕事だからこそ、常に「お客様のためにどこまで丁寧な仕事ができるのか」という思いでサービスレベルを高める努力を怠らないようにしています。
担当企業様から「以前の件では本当に頑張ってくれたので、今回もぜひ」とご指名をいただけた時はこの仕事の充実感を得られる瞬間ですね。
山口 晶弘(やまぐち あきひろ)
三井不動産リアルティ株式会社
関西支店 ソリューション営業部
営業グループ グループ長
コンサルタント
不動産鑑定士
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