2019/5/28

二つの経営課題を一度に解決したコンサルタントの一筋縄ではいかない経験知とは

売れないとあきらめていた不動産に、“セット販売” というアイデア!?

 

-  どういうご相談だったのでしょうか。

 

渥美 X社は、創業50年超、高い技術力を持つ電機系の研究開発会社です。本社は東京都心にあり、高レベルな技術者の確保が課題となるなかで、通勤に不便で古く利用率が低い社宅①を売却し、リクルーティングに効果がありそうな若い社員に人気の街に社宅に買い換えたい、というご相談でした。

私が社宅①の売却について提案した折に、X社のご担当者様から実は別に売りたいのに売れない旧社宅跡地②があって…、というお話を伺いました。首都圏郊外の古い社宅を取り壊した後の中規模の土地ですが、複数社の仲介会社にご相談をされて以来1年以上売却活動が停滞している状態でした。

 

渥美 直史

 

 

-  なぜ、その旧社宅跡地②は売却が難航していたのでしょうか。

 

渥美 隣地のご所有者様との境界確定で揉めていたためです。隣地所有者がX社の旧社宅土地の一部分について時効取得([1])を主張しており、境界確認の同意書の取り交わしもできない状態でした。面積にするとたった数㎡ですが旗竿敷地([2])の路地部分で、そこがないと無道路地になり建物が建築できません。ご自宅を探すエンドユーザーが多い郊外住宅地だったこともあり“建物が建てられないかもしれない土地”の買い手は極端に少なく、売却が難航していたようでした。

 

-  当初、買い換えを検討していた社宅に加えて「売りたくてもなかなか売れない不動産」があったわけですね。

 


[1] 時効取得(じこうしゅとく)・・・民法第162条に規定されている制度。他人の所有物を、所有の意思をもって平穏・公然と一定期間占有し続けると自己の所有物になる。

一定期間の定義は、善意・無過失の場合は10年間、故意の場合は20年間とされる。

[2] 旗竿敷地・・・道路(公道)に接する出入口部分が細い路地のような形状になっており、路地の奥に建物が建てられているような形状の土地のこと竿のついた旗のような形状をしていることから。


 

渥美 そうです。しかし、当初相談の社宅①と “セット売却”であれば購入希望者がいるな…と考えました

二つの不動産がある首都圏北西エリアに多く分譲実績を持つ不動産開発業者が開発用地を積極的に探しているという情報があり、声をかけてみたところ社宅①と合わせて旧社宅跡地②も現状のままでいいから購入したいという回答がありました。

 

-  ちょうどいいタイミングでしたね。そのような“動向”は、どうやってキャッチするのでしょうか?

 

渥美 不動産開発業者は「買い手」としても有力なターゲットですから、日頃から大手デベロッパーはもちろん準大手や地場業者など様々な不動産開発業者と情報交換を行っており、各社の特徴やニーズも頭に入っています。数年来、不動産の売り手市場が続いていて開発業者にとっては開発用地を仕入れにくい環境が続いていましたから、「解決に時間がかかる不動産」でも購入検討してもらえるのではと考えたのです。

不動産市場の上昇局面では開発業者がリスクを取って購入するケースが増えますので、権利関係や土壌汚染などの問題があり売れないと思っている不動産の売却には良い時期といえます。

 

物件紹介だけではない。購入時の様々なサポートで社内の意思決定をスムーズに

 

-  新たに買い換える社宅探しは、順調に進んだのでしょうか。

 

 当初お伺いしたご要望は(1)本社への通勤利便性、(2)若者に人気の街、(3)新築の3点でした。しかし人気の街は売出物件も少なく価格も高く予算内で探すのは難しいと思われたため、購入物件探しの方針として、不変価値の高い「立地」を優先し、賃貸中の中古一棟マンションをリノベーションしてはどうかとご提案しました。

物件購入に際しては、X社社内のいくつかの“関門”を突破し、最終的には経営会議で了承を得る必要があり、候補物件をひとつに絞ってから社内調整したのでは好機を逃してしまう可能性がありました。

そのため、弊社に在席している色々な経歴を持つベテランスタッフに協力を仰ぎました。今回はX社の経営陣に知己を持つベテランスタッフと協力しながら、X社の意思決定プロセスについてもサポートいたしました。

 

-  企業の不動産売買は経営にかかわりますし、決定までに時間がかかるイメージがあります。X社様へはどのようなサポートをしたのでしょうか。

 

渥美 基本的なことではありますが、有望物件を多数選定した「物件の見学会」、「不動産マーケットのご説明」、「リノベーション事例」の提案などを実施させていただきました。ただ物件をご紹介するだけでなく、購入方針に関するご提案や意思決定までの道程を丁寧にサポートするのも我々の大切な仕事の一つです。最終的には、23区の城南地区、人気駅の徒歩10分以内という好立地の中古物件の購入をご決断。売主様の早く売りたいというご希望もあり、ご満足のいく値引き交渉もできました。

現在は、グループ会社である三井不動産リフォームをご紹介させていただき、賃貸人の退去住戸からリノベーションし順次社宅へと切り替えている最中です。

 


イメージ

 

思い出は、経営陣を巻き込んだ真夏の「物件見学会」、X社様とは今では長いお付き合いに。

 

-  売りにくかった土地をセット売却、早く売りたかった物件にも遭遇、とトントン拍子に見えますが、実際はどうだったのでしょう。

 

渥美 不動産の取引の過程では大小様々な問題が発生します。本プロジェクトでも一口では申し上げられないほど様々な問題が起こりましたが、その都度X社様に対し真摯にご報告とご提案をしてまいりました。こういった積み重ねによって信頼を獲得できたのではないかと思っています。更に、このプロジェクトが成功した一番のポイントは、X社の経営陣の皆様に今回のプロジェクトに対しご興味を持っていただき、X社のご担当者様も含めて弊社と協力的な関係を築けたことだと思っています。

特に思い出深いのは経営者の皆様をお連れした真夏の「物件見学会」です。お勧めできる物件が揃ったのが真夏だったこともあり、酷暑の中でご案内することになってしまいましたが、皆様、酷暑をものともせず積極的にお付き合いいただきました。実際に“モノ”を見ていただけたことで、不安な点も早期に解決させていただき、スムーズに契約に至ることができました。

最近は、X社様から、もう少し社宅を増やしたいというご要望もいただき、新たに社宅用の不動産も探しています。最初にご相談をいただいてから4年以上の長いお付き合いになりました。

 

-  不動産仲介には信頼関係が大切、ということですね。

 

渥美 お客様にとって不利になりかねない情報、本プロジェクトでいえば旧社宅跡地②の権利関係問題について事前にお知らせいただけたのはありがたいことでした。昨今は、購入される方々が様々な事前調査を行うことが当たり前になっていますので、マイナスポイントを早めに共有させていただき、その対策を提案・実行できたことが成功戦略の第一歩といえます。

 

-  「売却しにくい不動産」を売りたい時は、偶然を待つしかない?

 

渥美 そうではありません。前にも申し上げましたが、接道がない土地でも価格によっては買う、という買い手は恐らく皆様が思っているよりは多くいらっしゃいます。価格で解決できる問題なら、適正な価格交渉次第で売れるわけです。そのような「問題があっても適正価格なら買う」人を探すのも私たちの仕事のひとつですから、売れないかな、見つからないかなとあきらめている場合などでも、ぜひ一度ご相談ください。

 


渥美 直史

 

渥美 直史(あつみ なおふみ)
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 統括営業部
情報開発グループ

お問い合わせ

不動産に関するご相談は以下までお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-921-582 TEL:0120-921-582

受付時間:9:30~18:00(定休日/水曜・日曜)

担当部署:ソリューション事業本部
FAX:03-5510-4984
住所:東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング