2025/10/24

株が分散した不動産管理会社の清算を“不動産M&A”で解決

不動産M&Aという売却方法を選択した理由

― 不動産M&Aとはどういうものなのでしょうか?

鈴木 不動産M&Aとは、不動産の取得を目的にした企業買収(M&A)です。買収する側の目的は、売主となる企業が保有する不動産であり、買主は不動産開発を目的とするデベロッパーをはじめ、不動産のプロであるケースが多くみられます。一方で売主は、不動産管理会社であること多いですが、一般の事業会社のケースも少なくありません。

今回、私が不動産M&Aを担当したA社様は、都内に4棟の賃貸ビルやマンションをご所有、運用されていた不動産管理会社です。会社設立から三世代にわたって相続が発生しており、会社の株式が創業者様のご子孫である個人株主80名以上に分散していたため、業務が煩雑になっていました。今後さらに相続が進んだ際には、会社の運営が困難になる可能性があること、また現在の経営者様がご高齢であることから、「会社を畳みたいので4棟の不動産の売却をしたい」というご相談でした。

― 不動産のご売却ではなく、不動産M&Aという「会社ごと売却する」という選択をしたのは何故でしょうか。

鈴木 不動産M&Aによる売却にはいくつかのメリットがあります。最大のメリットは税制面での取り扱いの違いです。不動産を現物で売却した後に会社を清算する場合に支払う税金よりも、株式で売却した場合の譲渡所得税の方が税負担を抑えやすいため、当社の方から売主様に、不動産M&Aによる売却をご提案いたしました。また、会社の株式をそのまま売却することになるため、会社清算のための手続きが不要である点もメリットです。今回のご売却の理由として、代表や役員の皆様がご高齢になってきたことがありましたので、会社清算のための労力を出来るだけ少なくできる点もご評価いただきました。

― 不動産M&Aの場合はどのように買い手を探すのでしょう。

鈴木 企業の買収とはいえ、取得目的は不動産ですので、「この不動産を購入したいのは誰か」を考え、売却戦略を策定します。また、テナントや取引先企業など関係各所への影響を最小限に抑えるため、オープンに買い手を探すのではなく、秘匿性の高い営業活動の方が望ましいと判断し、指名競争入札方式をご提案しました。入札参加者の選定にあたっては、まずご所有物件の特性を把握した上で、弊社が取引のある全国の企業様から、M&Aを通じた不動産取得の実績や、取引を完遂いただける信用力などを鑑み、数十社の候補企業を選定しました。最終的に経営者様とご相談の上、入札に参加いただく5社を決定いたしました。

具体的には、大手不動産デベロッパー、不動産の再生事業を手掛ける企業、収益不動産を多数保有する一般の事業法人など、複数のアプローチから検討いただける企業をラインナップし、結果的には大手不動産デベロッパーから最高値で応札いただきました。

ご所有不動産はすべて賃貸中であり、デベロッパーがすぐに開発を行えるような不動産ではありませんでしたが、弊社ではそのデベロッパーが複数の再開発事業に取り組む中で、事業地の地権者様が買換えを希望される際の代替物件ニーズがあることを把握しておりました。そのため、本件の有力検討者と見込み、入札に参加いただきました。

このような具体的なニーズと合致したことで、結果的にA社様にとっては高値での売却を実現でき、デベロッパーにとっても再開発事業の推進に必要な物件を取得できたので、売主様買主様ともに双方メリットの大きい取引となりました。

現物不動産の仲介とは違う
ノウハウが必要な不動産M&A

― 不動産M&Aと不動産売買との違いはどこですか。

鈴木 私ども仲介会社が不動産仲介を行う際には、まず対象となる不動産のデュー・デリジェンスを行います。一般的には、土地や建物の現況、テナント契約、賃料収入や支出項目などを調査し、遵法性や経済合理性について確認を行います。

不動産M&Aの場合は、これらの不動産のデュー・デリジェンスに加えて、会社を対象にしたデュー・デリジェンスも行う必要があります。会社の経営状況や法的な問題の有無、不動産以外の資産の有無や収支状況などを調査し、財務や会計処理を適正に行われているか、委託先企業との契約書やテナントとの契約書が適正か、契約関係書類が保管されているか、株式の名義に問題がないか、適切な手続きが取られているかなど、法務・会計の観点から会社の状況を確認していきます。ここが現物不動産の取引と大きく違う点であり、不動産M&Aならではのノウハウが必要な部分です。

― 例えばですが…デュー・デリジェンスによって問題が見つかった場合はどうなるのでしょうか?

鈴木 多くの場合、その問題のリスクや解決のためのコストが取引条件に加味されることになりますが、不動産が目的となる不動産M&Aでは、会社に存する瑕疵はあまり斟酌されないケースも多くみられます。よほど大きな遵法性の違反でない限りは、買主様に正しく状況を伝え、ご理解いただいた上で、両者が合意した条件をきちんと契約書に盛り込みます。これが、私どもの重要な業務の一つです。

調査の結果、今回のケースでは会社にも不動産にも大きな問題はありませんでした。ご所有不動産に関しては、私ども三井不動産グループのプロパティマネジメント会社が管理受託していたこともあり、運営管理や建物の状況に大きな問題はなく、会社の状況もきちんと経営されていた様子がよく分かりました。そのため、最後までしっかりと取引をまとめなければとならないと、気が引き締まる思いでした。

会社のデュー・デリジェンスを行う過程では、私がA社様のオフィスに何度もお邪魔して必要な様々な書類などをお借りしました。

また、これは売主様にも労力を割いていただくことになりましたが、80名以上という多数の個人株主様すべてに対して、会社の売却についての同意をいただく必要がありました。個人株主様は皆さまご親戚関係であり、各ご家庭のご家長様がA社様の役員となっていましたので、まずは役員の方々へ状況説明を行い、それぞれのご家族の同意を取得いただくという方法で、何とか乗り切ることができました。

鈴⽊ 智也図

徹底した気遣い
関係者すべてが安心できる不動産M&Aのために

― 不動産M&Aは現物不動産の売買よりもプロセスが多いですね。

鈴木 そうですね。A社様の経営者や役員の皆様がご高齢であったこともあり、皆様が不安を感じることがないように、皆様の事務負担をなるべく小さくするように配慮しました。引渡し・決済に至るまでのプロセスを丁寧にご説明するとともに、他の株主様への合意取得など、役員様に行っていただく必要があるプロセスについてもバックアップしました。

デュー・デリジェンスにおいては、財務や法務に関する調査を弁護士・税理士・会計士などの専門家の皆様にご協力いただき、売主様買主様双方に不安が残らないように万全を期しました。

今回のプロジェクトは、ご相談を最初にいただいてから残金決済が終了するまで、3年以上の時間を要しました。この中で最も時間がかかったのは売却方針の策定までで、2年近くかかりました。逆に言えば、方針策定プロセスにおいて丁寧にご説明させていただきご理解をいただけたことで、方針が固まって以降は1年程度で取引を完了することができました。実は80名以上の株主様の合意取得などはもっと時間がかかるのではと思っていたため、スピード感をもってご対応をいただけたのは本当にありがたく、多数の個人株主がいたため調整が困難と思われた不動産M&Aも、A社様にご協力いただいたおかげで無事に完遂することができました。


鈴⽊ 智也

鈴木 智也
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部
営業一部 営業グループ

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