2025/10/24
― まずは、今回の取引に至る経緯をお聞かせください。
海老原 売主であるB様は、三井不動産グループで長く資産に関するご相談を承っている個人資産家です。ご先代が三井不動産レッツ資産活用部へご相談されたことがご縁となり、以来10年以上にわたり、資産管理など様々なご相談を三井不動産グループで承っています。今回は、ご所有不動産のうち都内にある100戸超の大規模な賃貸マンションについて、築年数が経過し維持管理の手間が大きくなってきたということもあり売却したいというご相談でした。
賃貸マンションは築40年程度の住宅・事務所・店舗が混在する建物です。運営管理は、当社のグループ会社である三井不動産レジデンシャルリースがマスターリースを行っている他、ご先代から引き継がれた複数の管理委託先が存在し、非常に複雑な体制となっていました。
不動産を売却する際には、取引の検討資料として、建物の過去から現在までの状況、図面や修繕記録、賃貸状況などを調査し、買主に提示する必要があります。しかし管理状態が複雑であったことから、三井不動産グループで承る以前のご先代の時代から現在までの状況が分かる資料も点在していました。そのため、まずは物件調査を行うにあたり、B様や管理会社のご協力も得ながら一つ一つ調べていく必要がありました。
― 買主探しにあたっては、どのようなターゲットを想定したのでしょうか。
海老原 金額や規模が大きく、築年数が経過していることから「プロ」をメインターゲットとして想定していました。結果的に、実際にご購入いただいたのも「プロ」である不動産投資ファンドです。
一般的には、不動産投資ファンドは築年数の古い不動産を好まない傾向があります。しかし、当社の不動産投資ファンド担当チームが、買主となる投資会社様がちょうど新たな不動産投資ファンドを組成するタイミングで物件を多く求めているというニーズを的確に把握していたため、マッチングが実現しました。価格についても、当初から売主様との打ち合わせを通して設定した売却希望水準を満たす条件で交渉を進めることができました。
個人資産家の相続対策ニーズなども平行して探索していましたが、建物や管理状況の複雑さを考えると、個人投資家が購入するにはハードルが高い物件であったと思われます。
― 買主が不動産ファンドの場合、やはり厳格なデュー・デリジェンスが求められますか?
海老原 そうですね。今回のお取引では物件価格の調整はもちろん、価格以外の点についてもタフな交渉となりました。
不動産投資ファンドは、購入した不動産を金融商品として組成するため、購入不動産に対する情報開示の要求が厳しくなります。そのため売主側は、賃貸状況や権利関係、建物の履歴や現状などについて、求められた情報に対して適切に回答する必要があります。特に建物の状況については、売主様も知り得ない内容が含まれることがあるため、本物件については、当社の費用でエンジニアリングレポートを作成することにしました。
デュー・デリジェンスは通常、売却のための調査もしくは購入検討者が購入の検討材料とするためのものですが、今回は仲介会社である当社が費用を負担して行いました。これにはいくつか理由がありますが、最大の目的は、個人であるB様の取引に対する不安を軽減することでした。更には営業戦略上のメリットもあると考えました。メインターゲットは厳格なデュー・デリジェンスを求める不動産投資ファンドでしたので、先手を打ってエンジニアリングレポートを作成することで、買主様の検討スピードを高めることにもつながりました。
また権利関係や賃貸状況についてもレポートを作成する必要がありました。100戸を超える住宅・事務所・店舗それぞれのテナントの契約条件や収入・支出の確認、滞納の有無など、多岐にわたる調査項目がありましたが、B様にご協力を仰ぎながら、私どもがB様の代わりに尽力して資料を取りまとめていきました。
契約や運営関係に関する調査では、マスターリースを行っていた三井不動産レジデンシャルリースとの連携も重要でした。これだけの規模のマンションでは、売却準備を進める途中でもテナントの退去が発生します。空室となった部屋の募集賃料や契約条件、テナント選定などについては、三井不動産レジデンシャルリースの意見を参考にしつつ、買主様の意向に沿って決定する必要があるため、その調整も必要です。また入居者が入れ替わるたびにレントロールも変化するため、三井不動産レジデンシャルリースの担当と密に連携を取り、漏れのないように細心の注意を払って資料を整理し、契約書の内容をつめていく必要がありました。三井不動産グループが力を合わせたことで、これらの対応が可能となったと考えています。
― 他にもタフな交渉はありましたか?
海老原 不動産投資ファンドは一般の事業会社とは性質が異なり、例えるならば、投資家から預かった出資金を入れる「箱」のような存在です。イレギュラーな現金を保有していないことが一般的です。そのため、不動産投資ファンドに物件を売却する場合、契約に手付金の差し入れをしないケースがほとんどです。
ただし、今回のお取引では、売主様が個人であることや、物件の金額が大きかったこともあり、売主様が安心して取引を進められるよう、買主様に対し、手付金の代わりに売買契約後の中間金の差し入れをお願いできないか交渉を行いました。そして、その中間金を差し入れていただくための条件成就に向けて奔走した結果、実際に中間金の差し入れを行って頂くことができました。
― 今回のお取引にかかった時間はどのぐらいだったのでしょうか?
海老原 B様からご売却の方針をご相談いただいてから2年以上かかっています。今回は、当社の不動産ファンドチームによるファインプレーもあり、比較的早期に買主様を探すことができました。その代わり、仲介業務のコアである各種調査や条件交渉は、それぞれのフェーズにおいて時間のかかるタフな作業となりました。売主様がこれまでのお付き合いの中で、私ども三井不動産グループに対して信頼を寄せてくださったこともあり、私どもも一丸となって売主様のために、厳しい交渉にも粘り強く対応することができたと思います。
実は、このお取引を進めている最中に、ミニマムタックス税制の導入が決定されたため、スケジュールを前倒しすることになりました。B様の顧問税理士事務所とも密に情報共有を行うことで、B様にとってより良いお取引を実現できたことは、私どもにとっても大変嬉しいことでした。
― 築年数が経過している、遵法性を満たしていない、管理形態が複雑など、いわゆる「複雑な物件」でお悩みの方も多いかと思います。そのようなお悩みを持つ方にアドバイスはありますか?
海老原 複雑な物件に限ったことではありませんが、ご所有不動産に関する建築図面、検査済証、修繕記録、点検報告書などの書類、また賃貸借契約書をはじめとした各種契約書類をしっかりと保存しておくことは非常に重要です。不動産取引においては、遵法性を満たしていないことなどは価格の減価要因となる可能性がありますが、遵法性の観点に限らず、「不明な点がある」ということ自体が、売却に際して不利に働くことがあります。将来的にご売却も視野にある場合は書類や契約書をきちんと保存しておくことをお勧めします。
また売主様による表明保証を求められる際には私どもプロの力で、安全な取引をバックアップしますのでぜひ私どもを頼りにして頂きたいと思います。
海⽼原 良太
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 営業二部
霞が関オフィス 所長
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