2025/10/24
― 大手企業が保有する工場用地のご売却をお手伝いされたということですが、どのような経緯でご相談を承ったのでしょうか?
林 売主であるC社様は大手のエネルギー企業、買主のD社様もエネルギー分野を中心に様々なサービスを展開するメーカーです。当社にとってC社様はこれまでもご用命いただいているお得意先様であったこともあり、今回ご相談をいただきました。
ご相談は、川崎市内のほとんど利用していない工場用地を、D社様の新工場用地としてご売却することが決まったため、仲介業務をお願いしたいというものでした。
― 「売りたいから購入者を探してほしい」ということではなく、「購入者はすでに決まっているので、その他の仲介業務をお願いしたい」ということですか?
林 はい。仲介業務と言うと、購入者を見つけるマッチング業務をまず思い浮かべがちですが、その他にも物件の調査、関係各所との調整、売買条件の交渉、契約書の作成など、多岐にわたる業務があり、これらも私ども仲介業者の重要な仕事の一つです。
今回は、両社の経営者同士のコミュニケーションにより、C社様からD社様へ売却することだけが決まっていて、その他の条件は何も決まっていないという状況でした。そのため、私どもが仲介に入り、様々な業務を請け負ってほしいというご要望でした。
どの程度決まっていなかったというと、ご相談をいただいた時点では、広大な工場用地のうち、どの部分を何㎡売却するかも決まっていない状態でした。
その後、お打合せを重ねる中で、D社様の希望する購入面積や価格を決定できました。社様はご購入後の事業について、総事業費や想定プラン、収支などをすでにシミュレーションされていたため、そこから逆算して必要な土地面積や購入金額を試算し、判断材料としていただきました。結果的に、市場流通価格からそれほど乖離していなかったため、両社ともにご納得いただきやすかったと思います。
― 今回のように、企業同士で売買のマッチングはできていて、それ以外を手伝ってほしい、ということはよくあるのでしょうか?
林 工場用地の民間企業同士の取引自体は、不動産取引全体から見ると決して多くはありませんが、このようなケースは時折あります。工場については、例えば「稼働が低下している工場を誰かに賃貸できないか」「賃貸していた工場を売却したい」などのご相談もあります。
当社では、これまでいくつかの工場案件の仲介を承っており、私自身もこれらの案件の一部に携わってきましたが、工場の取引は売主様買主様のご要望が様々で、それに対応するための特別な知識や経験が必要になると感じています。
― 今回のお取引を進めるにあたって注意したポイントを教えてください。
林 工場をはじめとした事業用不動産の購入検討にあたっては、買主様が希望する用途で使用できるのかが最重要です。そのため、建築法規はもちろん、自治体によって異なる法令や条例などの関連法規のチェックは欠かせません。
今回の土地は、私が過去何度か取引を担当したことがある地域にありましたので、その経験を活かして、起こり得る問題点をあらかじめ洗い出し、調査や自治体との調整を行うことができました。
取引価格に対するインパクトが大きく、条件交渉が難しかった懸念事項として、土壌汚染や地中埋設物の問題がありました。土壌改良や更地化のコストが読み切れなかったため、買主様と協議の上、土壌調査会社によるコストキャップ保証を付保することにしました。これは、土壌調査をすべて完了していない状態でも、土壌改良工事の費用を保証してくれるという保険のようなものです。
当然、C社様も過去に対象の土地上に建っていた建物の解体時に土壌調査を行っていましたが、調査後に土壌汚染対策法が改正され、調査対象項目が増えてしまったため、その分と、総量が不明であった地中埋設物に対してコストキャップ保証を付保することで、条件の調整が進めやすくなりました。
今回依頼した土壌調査会社は、当社とも取引が多い信頼できる会社なのですが、D社様のご担当者様の中にこの会社への勤務歴がある方がいたため、さらに安心感をもって取引を進めていただけたのではと思います。
対象の土地はすでに更地でしたが、地中に撤去が困難な残置物があったため、建築確認のプロセスとは別に、前段階で自治体との事前調整プロセスも必要でした。さらに、接道条件についても自治体との調整が必要だったため、売主様にも買主様にも様々なご協力をいただきました。これらを含めた数々の項目について、プランの再検討や社内調整などが必要になりましたが、両社とも前向きにご協力いただいたので、関わった皆様には本当に感謝しています。
― 企業の不動産売却のプロセスは、社内の調整業務も大変そうですね。
林 売却面積や価格、その他条件やスケジュールなど、多岐にわたる取引条件をつめていく過程で、売主様買主様双方のご担当者様は、調整した条件を自社に持ち帰り、社内で承認を得る必要があります。こうした社内調整に関するサポートも私どもの重要な業務の一つです。
企業の意思決定がスムーズに進むよう、不動産のプロとして市場調査や対象不動産の詳細調査、取引条件に関するアドバイスなどを、できるだけ分かりやすく提示するよう努めました。また、ご担当者様の社内調整の負担を少しでも軽減できるよう、いただいたご要望には可能な限り当日中のクイックレスポンスを心がけました。
実は、C社様の二つの部門間で、ある条件について意見が分かれることがあったのですが、その際には、ご担当者様とともに私も、社内の打ち合わせに参加させていただく場面がありました。非常に緊張しましたが、結果にうまくまとめていただくことができ、本当にほっとしました。
― 経済紙の一面で報道されてもおかしくないような大きなお取引でしたよね。
林 今回の用地は、D社様が、近年事業拡大に取り組んでいる分野に供する土地だったこともあり、報道されました。このように経営に大きくかかわる仕事に携われたことは、非常に良い経験となりました。
A社様とは、これまでも長く当社をご愛顧いただいており、今回もご用命いただけたことを嬉しく思います。この大きな取引を通じて、さらに信頼関係を築けたと感じています。
また、D社様とのお取引は初めてでしたが、C社様のご用命のおかげで知己を得ることができ、非常にありがたい余得となりました。D社様には、条件交渉や自治体との調整のために必要な事業計画の調整や変更などを、グループ企業まで含め大勢の方々にご協力をいただきました。その過程で、同じゴールを目指すパートナーとしての信頼関係を築くことができたと感じています。
ありがたいことに、D社様から別の不動産の購入についてご相談をいただいており、現在も推進させていただいているところです。こうした出会いは、仕事をするうえで大きな喜びになります。
林 洋輔
三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部 営業三部
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