2025年トランプ関税によって、世界経済、日本経済の行方が注目されています。国内景気は回復持続するのか、「2025年トランプ関税と日本経済」と題し、以下の3部構成で解説していきます。
第1部 経済指標から読む相互関税
第2部 米中関係とアメリカ経済への影響
第3部 日本経済への影響
前回のトランプ政権時における米中間の貿易戦争は、両国経済だけでなく、世界経済全体に大きな影響を与えました。第2部では、米中関係とアメリカ経済への影響について解説します。
永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
米中間の関税問題は、前回のトランプ政権時代に激化し、中国からの輸入品に対して高関税を課すことで、貿易赤字の削減や国内産業の保護を目指していた。これに対し、中国もアメリカからの輸入品に報復関税を課し、関税の応酬が繰り広げられた。
直近の動きとしては、2025年5月に米中両国がジュネーブで協議を行い、追加関税を115%引き下げることで合意した。これにより、一時は相互に100%を超える高関税となっていた関税率が緩和されることになった。しかし、基本的な関税の枠組みは維持されており、今後も関税問題は米中関係の主要な焦点であり続けるだろう。
相互関税は、既にアメリカ経済に多岐にわたる影響を与えている。
(1)コスト上昇と消費者への影響
まずは輸入品価格の上昇である。中国からの輸入品に課される関税は、アメリカの輸入業者が負担し、その多くは最終的に消費者に転嫁される。これにより、家具、家電、衣料品、電子部品など、中国から輸入される多くの消費財の価格が上昇し、アメリカの消費者の購買力を低下させ、インフレを加速させる可能性がある。特に低所得層への負担が大きくなることが予想される。
特に、企業のコスト増には注意が必要だろう。というのも、製造業など中国からの原材料や部品に依存しているアメリカ企業は、関税によってコストが増加する。これにより、企業の利益が圧迫されたり、製品価格に転嫁せざるを得なくなったりすることが想定される。
(2)貿易構造の変化と国内産業への影響
こうしたことで、見かけ上は海外からの輸入が減少することで米国における財の貿易赤字は一時的に縮小する可能性があるだろう。しかし、輸入が減少する分については、国内生産比率の上昇がみられないと、インフレが加速してスタグフレーションのリスクも高まることになろう。
ただ、鉄鋼業や特定の農業機械メーカーなど一部の国内産業は、関税によって輸入品との競争が緩和され、競争力向上や国内生産の強化の恩恵を受ける可能性があるかもしれない。
とはいえ、トランプ関税による先行き不透明感は、企業の設備投資計画を抑制させる要因となるだろう。特に貿易関連の業種で、投資の伸びが低下する可能性が強まることには注意が必要だ。
(3)サプライチェーンの混乱と再編
アメリカ企業は、これまで中国からの輸入に依存していた状況から、経済安全保障のリスクを低減するため、サプライチェーンの再構築を迫られている。このため、代替調達先の確保や生産拠点を海外から自国へ移転する動きが加速するだろう。
ただ、こうした関税によって海外事業所をアメリカ国内に戻す(リショアリング)という期待もあるが、実際には部品の国際分業が進んだ産業ほどサプライチェーン管理が困難になり、期待通りの国内回帰には至らない可能性が高いだろう。
(4)金融市場と不確実性
こうしたトランプ関税の問題は、金融市場に先行きの不安をもたらし、株価や為替市場の不安定な動きを今後も引き起こすだろう。
とくにこうしたトランプ政権の関税政策のように、予測不可能な政策は企業にとって脅威となりうる。これにより、企業の経営戦略や投資判断に不確実性が増し、経済活動が停滞する可能性が高いだろう。
トランプ政権による相互関税は、アメリカ経済に対し、消費者の負担増や企業のコスト増、貿易構造の変化、サプライチェーンの再編、そして経済全体の不確実性増大といった多岐にわたる影響を与えるだろう。90日間の猶予期間の間に関税の引き下げ合意など、一時的な緩和が見られるが、依然として米国における海外との経済関係は複雑であり、その動向は今後もアメリカ経済に大きな影響を与え続ける可能性が高いといえるだろう。
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