2025/5/12 市況

CRE戦略としての有効活用|第2部 企業不動産の有効活用と経営改革

日本企業にとって、総資産に占める不動産の比率が高く、企業不動産の生産性がその企業の収益性、企業評価につながります。「CRE戦略としての有効活用」と題し、以下の3部構成で解説していきます。

第1部 企業不動産の生産性
第2部 企業不動産の有効活用と経営改革
第3部 不動産の含み益と企業評価

第2部では、企業不動産の有効活用と経営改革について解説します。

永濱 利廣

永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

不動産価値向上へ向けた取り組み

企業行動の面から不動産の有効活用に向けた動きを確認してみよう。具体的には、資産売却や流動化、再開発などの流れが非不動産企業にも広まりつつあるかという点であり、こうした背景には、企業の意識改革やファンド等による資産効率改善へ向けた圧力が考えられる。

まず、法人企業統計を元に非金融法人の不動産取得動向を見ると、2021年度は純増を続けていたことが見て取れる。2022年度に入っても金額は縮小したものの純増は継続し、ネットで純減に転じたのは 2024年度以降と、コロナ後純増に転じてから3年経過してからである。しかし、製造業だけは依然として純増を続けており、特に2024年以降の純増ペースは前年差2兆円を上回っていることがわかる。

企業不動産の純増額

また、東京商工リサーチの調査によれば、上場企業の不動産売却企業数は2010年代後半以降にいったん落ち着いていたが、2020年代以降は再度増加トレンドにあることがわかる。

そして、以上のような不動産売却とセットで隆盛を極めているのが不動産証券化ビジネスである。というのも、国土交通省「土地白書」によると、不動産証券化の市場規模は2023年度に28.6兆円と過去最高を更新している。こうしたことから、上場・非上場Jリートを問わずに国債利回りよりも高い配当利回りを求めた資金流入が旺盛な点も、企業の円滑な資産売却につながっている可能性があるといえる。

また、政府も積極的に土地の有効活用を促そうとしていることもあり、近年「CRE(Corporate Real Estate:企業不動産)戦略」を目にする機会が増えている。実際、政府は低未利用のまま放置された企業不動産の不透明な実態の把握や、企業不動産の取引を一定の基準で蓄積して取引の透明化を促す手順などを整備してきており、国土交通省では2030年頃までにJリートと不動産特定共同事業等の総額で約40兆円を目標設定している。

上場企業における不動産売却企業数
Jリートと不動産特定共同事業等の資産総額

実際、日本企業はアクティビストと言われる物言う株主から「有効利用や開発ができなければ売却せよ」という圧力を受けることは少なくなく、CRE戦略として、ひいては企業価値そのものを高める経営戦略として、企業不動産の有効活用や開発、それができなければ売却を検討することになる。

2025年1月のJリートの月間売買状況によると、「海外投資家」(68.68%)、「法人」(18.20%)、「国内個人投資家」(12.78%)、「証券会社」(0.33%)となっており、海外投資家が7割近くを占めており、海外投資家の動向がJリート市場に与える影響が大きいことがわかる。

なお、2024年において証券化の対象となった不動産の用途別資産取得額の割合は、「事務所」(26.5%)、「倉庫」(20.2%)、「住宅」(20.0%)、「商業施設」(6.7%)、「ホテル・旅館」(10.3%)、「ヘルスケア施設」(2.1%)などとなっている。

海外投資家をはじめとした利害関係者から、用途問わず企業不動産の有効活用を通じて企業全体の経営改革につなげることが期待されている。

Jリート等の用途別資産取得額の割合

出所:株式会社東京証券取引所「投資部門別売買状況 REIT月間売買状況(2025年1月)売り買い合計」
出所:国土交通省 令和5年度 「不動産証券化の実態調査」の結果


本コラムの記載は、掲載時点の法令等に基づき掲載されており、その正確性や確実性を保証するものではありません。最終的な判断はお客様ご自身のご判断でなさるようにお願いします。なお、本コラムの掲載内容は予告なしに変更されることがあります。

お問い合わせ

不動産に関するご相談は以下までお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-921-582 TEL:0120-921-582

受付時間:9:30~18:00(定休日/水曜・日曜)

担当部署:ソリューション事業本部
FAX:03-5510-4984
住所:東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング