2024年は経済や不動産市場に影響を与える政治イベントが目白押しです。2024年不動産市場における政治リスクについて以下の3部にわたり主要ポイントを読み解きます。
第1部 新興国・欧州選挙
第2部 米中対立・ウクライナ・中東情勢
第3部 国内選挙と米大統領選
第1部の今回は、新興国・欧州選挙について解説していきます。
永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
年度明け早々の4-5月にインド総選挙、5月8日に南アフリカの総選挙が予定されている。まず、インドの総選挙は下院選挙となる。この選挙では、これまで2期続いてきた中道右派であるインド人民党のモディ政権の実績が問われることになろう。インドの経済政策を振り返ると、適度な金融引き締めによりインフレと通貨安は回避されていることなどもあり、モディ首相の支持率も高水準を維持してきた。しかし一方で、野党の結束が強まっていることには注意が必要だろう。きっかけは、昨年3月に中道野党である国民会議派の首相候補だったガンジー元総裁に対して、モディ首相に対する発言等による名誉棄損として禁固2年の有罪判決を下し、下院がガンジー元総裁の議員資格をはく奪したことである。その後、ガンジー元首相は上訴して議員資格を回復したが、こうしたモディ首相による圧力により、ガンジー元総裁の国民会議派を含む26の政党が選挙連合(INDIA)を立ち上げるに至っている。このため、総選挙でインド人民党が下野せずとも単独過半数を割れば、政権基盤が不安定になり、金融市場に動揺が走る可能性があろう。具体的にはインドで株安、金利上昇、通貨安が予想される。一方、与党が過半数を維持すれば、政策が安定し、経済重視の政策が期待されるため、インドで株高、金利低下、通貨高が期待される。
その後、5月8日には南アフリカで総選挙が予定されている。南アフリカでは、下院選挙後に下院から大統領が選出される。アパルトヘイト廃止を受けて1994年からは全人種参加の議会選挙となっており、その間は中道左派であるアフリカ民族会議(ANC)が過半数を占めている。しかし、腐敗などの批判により議席数を減らしているため、今回の総選挙でANCが過半数を割ると、政権が不安定になるリスクが高まり、金融市場で材料視される可能性がある。具体的には南アで株安、金利上昇、通貨安となる可能性があろう。一方、政権安定が続けばインドで株高、金利低下、通貨高が期待される。
続いて、6月2日にはメキシコでも総選挙が実施される。メキシコの大統領は再選がないため、新たな大統領が選出されることになる。そして現大統領のロペスオブラドール大統領の後継として、与党である左派の国民再生運動(MORENA)はメキシコ前市長のシェインバウム氏、野党連合は駐豪左派の国民行動党(PAN)からガルベス上院議員をそれぞれ候補に擁立している。なお、現大統領の支持率が高いため、現時点では与党候補が優勢である。ただ、マーケットは左派政権を嫌う傾向があるため、一時的にメキシコで株安、金利上昇、通貨安の可能性があろう。ただ、現政権のように現実的な財政規律重視の経済政策が実施されれば、メキシコで株高、金利低下、通貨高となろう。なお、中道右派に政権交代となり、経済優先の政策が実施されればメキシコで株高、金利低下、通貨高となろう。
欧州でまず注目なのは、6月6~9日に実施される欧州議会選挙である。何といっても注目なのは、EU支持会派が過半数を確保できるか否かだろう。メインシナリオとしては、ウクライナ紛争に伴うロシアの脅威やエネルギー供給不足等により、EU結束を重視する有権者が優勢となろう。しかし、東欧の一部国等ではウクライナ支援に反対する政権が発足しており、支援疲れ等から一枚岩となっていないことには注意が必要である。また、ガザ紛争などにより難民や移民受け入れの懸念が強まっており、イスラム過激派によるテロの懸念などもある。こうしたことからすれば、EU会議派の右派政党が議席を伸ばす可能性には注意が必要だろう。なお、EUの結束が維持される結果となれば市場への影響は限定的だが、EU結束の綻びが警戒される結果になれば、欧州を中心に株安、金利上昇、ユーロ安圧力となることが予想される。
続いて注目なのは英国の総選挙である。実施期限は来年1月28日が実施期限となっているが、年内に前倒しで行われる可能性があるからである。英国はブレグジット後に世界的なプレゼンスが低下する中、コロナショックやウクライナ危機に伴うスタグフレーション、トラスショック、ジョンソン元政権の不祥事等により、中道右派となる与党保守党の支持率が中道左派である野党労働党の支持率を下回っている。このため、労働党への政権交代の期待が高まっている。なお、労働党が過半数を獲得できなければ、中道の自由民主党との連立政権とみられている。そして、こうなると左派色の強い大きな政府、規制強化的な政策がとられる可能性があり、金融市場では波乱材料となる可能性がある。しかし、いずれにしても労働党政権になるか、保守党単独過半数になれば、政権安定で英株高、金利低下、ポンド高になろう。ただ、保守党の連立政権となれば、政権不安定で英株安金利上昇、ポンド安が懸念される。
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