2023/7/14 法律

民法改正のポイントを読み解く|第2部 所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

不動産登記

2023年4月より施行された民法改正。今回の改正で、共有制度、財産管理制度、相続制度や相隣関係がどう変わったかについて主要ポイントを読み解きます。

第1部 相隣関係規定の見直しについて
第2部 所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し
第3部 相続土地国庫帰属制度について
今回は所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しについて解説していきます。

不動産登記

不動産登記法について2024年4月以降、段階的に改正法が施行されます。

通常、不動産の所有者は不動産登記の登記名義人で確認することができます。従前の不動産登記法ではこの登記事項について、土地で言えば所在、地番、地積等が記載される「表題部」について、変化が生じた際に登記義務が課されていました。しかし所有者等が記載される「権利部」は、当該不動産の所有権帰属の公示であり、その所有権を第三者に対抗するための役割であるということから、「権利部」の変更に係る登記義務は課せられていませんでした。

その結果、不動産登記から所有者がすぐに分からない、分かっても連絡がつかず、所有者を探すために戸籍を収集する・現地へ訪問するなど、多大な時間と費用を要することとなり、所有者不明土地が増加しました。土地の利活用が困難となり、民間の土地取引が阻害され、防災等公共事業での用地取得や森林の管理などの面で支障が生じることとなり、国民経済に著しい損失が生じていました。

こういったことを背景に
①所有者不明土地の発生予防
②土地利用の円滑化
の両面から所有者不明土地問題の解決を図るため、相続登記の申請の義務化をはじめとする見直し及び新たな制度が導入されます。

相続登記

相続登記の義務化

相続や遺贈によって不動産を取得した相続人に対し、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日」から3年以内に相続登記の申請が義務付けられるようになりました。

遺言書があった場合では、不動産の所有権を取得した相続人が、取得を知った日から 3年以内に遺言の内容を踏まえた登記申請義務を負うこととなります。

遺言書がなく、法定相続人が複数存在する場合では、3年以内に遺産分割が成立し、 その内容を踏まえた相続登記の申請が可能であれば、遺産分割によって不動産の所有権を取得した相続人が登記の申請義務を負うこととなります。

相続発生後、3年以内に遺産分割協議が整わない等、相続登記が困難な場合は、現行法でも行われる「法定相続分での相続登記」を行うか、今般の改正で新たに設けられた「相続人申告登記」のいずれかを行う義務が生じ、どちらを選んだとしても後に遺産分割協議が整った場合は、遺産分割成立日から3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請義務が課されます。

不動産登記

氏名(名称)・住所の変更に伴う登記の義務化

改正前の不動産登記法においては、所有権の登記名義人の氏名(名称)、住所についても、その変更があった場合でも当該変更についての登記義務は課されていませんでしたが、今般の不動産登記法の改正により、変更日から2年以内の登記申請義務が課されるようになりました。

(1)登記名義人の死亡・変更情報等の符号登記

今般の改正により、登記官が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報を取得した場合、その職権で不動産登記の登記名義人に死亡の事実を符合によって表示する制度が新設されました。

また、死亡情報に限らず、登記官が他の公的機関から氏名、名称、住所等についての変更情報を取得した場合、死亡情報と同様にその職権で氏名、名称、住所等の変更の登記を行うことも可能となります。その前提として、登記官が他の公的機関から、所有者等の死亡情報や、氏名・名称及び住所の変更情報を取得することもできるようになります。

(2)所有不動産記録証明書

不動産登記における登記記録は、一筆の土地、一個の建物ごとに作成されるため、これまでは特定の者が所有権の登記名義人となっている不動産を全国から網羅的に抽出し、その結果を公開するような仕組みが存在しませんでした。

各行政(市区町村)に発行を受けることが可能な名寄帳なども、行政ごとに申請する必要があったため、所有権の登記名義人が死亡した際に、その者が所有する不動産を相続人が把握するために大きな労力が必要とされ、把握しきることができず、死亡した者の名義がそのまま放置された状態となっている不動産が散見されていました。

そこで、相続登記の申請義務化に伴い、相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくすることで、手続的負担を軽減すること、登記漏れを防止する観点から「所有不動産記録証明制度」が新設されることとなりました。

ただし、誰でも所有不動産記録証明を申請することができてしまっては困るため、プライバシー等保護の観点からも交付申請することができる者は、個人、法人問わず、自らが所有権の登記名義人となっている者に加え、相続人、一般承継人のみに限定されます。

上記の改正、及び新設制度によって、これまで抱えていた所有者不明土地問題に係る不動産登記法上の問題点がクリアになり、所有者不明土地問題を解決へ向けて大きく前進するものと思われます。

次回は、今般の所有者不明土地をめぐる一連の関連法規の改正や、新法においても注目される「相続土地国家帰属法」について触れていきます。

(関係法規:不動産登記法(改正)第76条の2「相続等による所有権の移転の登記の申請」、同法第76条の3「相続人である旨の申出等」、同法第76条の4「所有権の登記名義人についての符号の表示」、同法第76条の5「所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請」、同法第76条の6「職権による氏名等の変更の登記」、同法第119条の2「所有不動産記録証明書の交付等」)


本コラムの記載は、掲載時点の民法およびその他関係法規(施行予定を含む)に基づくものであり、法律の改正等により変更される場合がございます。また、本コラムはその正確性や確実性を保証するものではありません。最終的な判断はお客様ご自身のご判断でなさるようにお願いします。なお、本コラムの掲載内容は予告なしに変更されることがあります。

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