CRE戦略は、保有不動産の有効活用を目的とするにとどまらず、それを経営資源として企業の中長期的な競争力と将来の発展性を強化するものです。企業が自らの不動産を戦略的資産と位置づけ、業績向上を目指しその活用を進めることがCRE活動の第一歩です。
CRE戦略として着手されやすいケースとしては、遊休地や活性の低い不動産資産を売却するという施策があります。もちろん、その売却によって固定資産税を削減し、売却益自体を会社資産に組み込むという不動産管理業務上のメリットはありますが、こうした取り組みはCRE戦略の一つのアウトプットパターンに過ぎず、そうした資産を保持していない場合は、CRE戦略を推進できないということではありません。
経営資源としての自社不動産について正確に把握し、その情報をマネージメント観点で共有化をするとともに、その活用においての最適化を計り経営方針にもフィードバックするというサイクルを構築することがCRE戦略の全体像です。
そしてそのサイクルを推進していく際には、企業を取り巻く地域経済や都市機能の活性化といった、社会価値向上をも視野に入れていくことが必要とされます。
国土交通省によるガイドラインの公表※7によりCRE戦略というものが広く認知されるようになった初期段階から、CRE戦略には単なる経済活動における合理性だけではなく、社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)をも果たす役割が求められてきました。
先進的なグローバル企業では、企業活動自体にもこの取り組みは積極的に進められてきましたが、我が国においてもCSRの評価基準ともなるESG投資額は近年増大しつつあり、2023年の残高は645兆円に到達しています。
CSRとCRE戦略は、別軸にありCRE戦略の成果獲得の見返りのような形でCSRに取り組むように考えられがちですが、両者は密接に連携し合い、むしろ社会価値を創出することで経済的ゲインを獲得するというプロセスを辿るという方が理想的です。
そのため、企業活動の主要な拠点である不動産がCSRを果たす役割を発揮することが重要となります。例えば自社の活動拠点の社屋などの防災機能を高めることや、敷地周辺の道路の拡幅や緑地・歩行空間の確保により利便性や景観形成を改善することなどで、地域の安全性や活性を向上することでの社会価値を創出することが考えられます。こうした施策は資産価値の向上のみに留まらず、地域住民や自治体からのコーポレートブランド評価や社会的信頼の獲得といった成果を達成することも期待できます。
CSRと同軸にあるCRE戦略の実践においては、担当者にエキスパートスキルが不可欠となります。我が国におけるCRE関連の資格制度としては、認定ファシリティマネジャー(CMFJ:Certified Facility Manager of Japan)や不動産証券化協会認定マスター(ARES Certified Master)等が挙げられます。その具体的なスキルとは、高度な専門知識と高い職業倫理、優れた実務能力、市場の発展を担う使命感、幅広い人的ネットワークの構築力などです。
これらのエキスパート主導の下、社内の経営層や事業部門からのニーズを的確に把握する一方、社外の自治体や不動産ベンダーなどからの情報収集を活発にし、業績向上と社会価値創出を両立させる取り組み、すなわち不動産だけの枠に捉われず社会を構成する一要素としての企業の経営資源の有効性を高める、いわば「全体最適」を志向するアプローチが重要視されています。