近年では、CRE戦略における「産官学連携」の進展が重要なファクターとなりつつあります。国や自治体、大学といった公共性の高い組織と企業が連携し、研究開発や社会課題の解決を目的とした取り組みを進めることで、地域全体に経済効果が波及することも増えてきました。これらの拠点が設けられたエリアでは、企業不動産の活用範囲が広がる傾向も強まっています。
先端医療に関連する研究の深化や、AI技術の発展などを背景として、大学や研究機関を中心とした公的研究開発への投資は増加基調にあります。
特に科学技術イノベーションを国策と位置づけた「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021~2025年度)が策定されてからは、重点分野への集中投資が進められており、大学と企業、自治体が連携するプロジェクトには多くの公的資金が投入されるようになりました。
このような産官学連携プロジェクトは、単に研究成果を生むだけでなく、先端分野の人材育成や企業の技術力向上に寄与すると同時に、活動を支える場である不動産の市場にも影響を与えます。
例えば、研究施設、試験棟、コワーキングスペース、短期滞在用住居など、多様で利便性の高い用途を想定した不動産の開発が求められるため、企業にとっては保有資産を活用した用地の提供や施設整備のチャンスともなり、公的バックアップを背景とした研究施設の増加は、CRE戦略の観点で見てもアセットの価値を向上する良い流れであると言えるでしょう。
学校の活性化、インフラの発展、産官学連携によって、大学等に投下される研究資源が潤沢になるにつれ、その活動はますます活発化しています。中でも多彩な取り組みを繰り広げる慶應義塾大学において進められているいくつかの連携プロジェクトは、CRE戦略の観点で見ても注目に値する好例です。
神奈川県川崎市の臨海部、殿町地区に位置する世界最高水準の研究開発拠点※6「キング スカイフロント」では、慶應義塾大学医学部がライフサイエンス分野における研究・実証の拠点としてキャンパスを展開しています。臨床研究支援センターを軸として、製薬企業やバイオベンチャーとの共同開発、さらには国際的な医療ネットワークの構築などを進めており、これらの事例は産官学連携が好転している典型例と言えるでしょう。
また、同じく慶應義塾大学と日本航空との連携で、航空業界におけるカーボンニュートラルやSDGs対応をテーマにした研究活動も展開されています。学生や若手研究者の積極的な参加によってメンバーの若年化・多様化が進み、従来の大学の研究室と比べて社会との接点が多くなったため、より実践的な取り組みが可能となりました。
さらに、NTTとの産学連携プロジェクトでは、IT・デジタル技術を活用したスマートシティ構想やデジタルツインの実装など、未来志向の研究が進行中です。
こうしたプロジェクトはいずれも、大学キャンパスの枠を超えて、民間企業の施設や地域のインフラなどに軸足を置いて活動が進められており、その場で発現するニーズはインフラのスケールアップをもたらすなどCRE戦略との親和性が見て取れます。
こうして産官学連携の拠点が形成されると、その周辺では研究者や関係者が滞在・活動するためのインフラ需要が新たに生まれます。それらは、交通網の整備や宿泊・飲食施設の充実、医療・保育サービスの確保など、従来のオフィス街や住宅地とは異なる機能であり、それによって地域全体の土地利用や街の形が変化することも少なくありません。
活発な産官学連携の拠点となっているキング スカイフロント周辺は、かつてはいすゞ自動車の工場などが建ち並ぶ重工業中心の工業地帯でした。しかし、いすゞ自動車の工場閉鎖後に、キング スカイフロントの開発が進んで以降は、研究施設に加えて短期滞在型レジデンスや国際会議対応のホールが作られ、また多摩川スカイブリッジの架橋によって空港アクセスが劇的に改善したように交通環境などの整備が進み、新たな都市機能が生まれています。
このようなエリアに不動産を保有する企業にとっても、この新しい取り組みは、研究機関への協力拠点の設置やサテライトオフィス、ラボ施設運営への参入など、さまざまな不動産戦略を展開する余地を拡げつつあります。
産官学連携の広がりは、CREが「単なる土地所有」から「地域共創型不動産活用」へ転換していく契機になっているとも捉えられます。研究・産業・地域社会が交差するフィールドに、企業が資産を保有することの価値が今後ますます高まっていくことが予想されます。