2024年7月9日に、国土交通省が推進している令和6年度「優良木造建築物等整備推進事業」採択プロジェクトが公表されました。
優良木造建築物等整備推進事業とは、木造化に係る先導的な設計・施工技術が導入されるプロジェクトや、炭素貯蔵効果が期待できる中大規模木造建築物の普及に資するプロジェクトを支援する事業のことで、審査の結果、事業の目的に適う提案に対しては補助金が支給されます。
事業に採択された建築物には様々な用途の物件があり、低層の建造物だけでなく高層のオフィスビルが採択される事例もあります。その事例には令和6年度の東京都千代田区の「(仮称)東京海上ビルディング新築工事」や、令和5年度の東京都中央区の「日本橋本町 国内最大級の木造オフィスビル」が挙げられます。
【建物概要】
・(仮称)東京海上ビルディング新築工事
建築主等:東京海上日動火災保険株式会社 階数:地下3階・地上20階建 高さ:約100m 延床面積:約126,000平米
・日本橋本町 国内最大級の木造オフィスビル
建築主等:三井不動産株式会社 階数:地下1階・地上18階建 高さ:約84m 延床面積:約28,000平米
いずれも従来であれば鉄骨造や鉄筋コンクリート造等が採用されていた規模ですが、木造の建造物です。
木造の大規模建築物が登場した背景には、「供給側の事情」と「技術の確立」の2つの理由があります。
供給側の事情とは、日本の森林資源が既に利用期に入っているという点です。戦後まもなく植林された樹木が成長を終え、利用できる時期を迎えていますが、輸入木材の台頭もあって消費量が多くないことから、せっかくの利用期の森林資源を持て余している状態となっています。
戸建て等の低層建築物だけでは、国内の森林資源を使い切れないことへの打開策としても、木材の使用量の多い大型建築物への利用が期待されています。
技術の確立とは、CLT(シーエルティー:Cross Laminated Timber)と呼ばれる木材が登場したという点です。CLTとは、繊維方向が直交するように積層接着した大判の木質パネル建材です。CLTは収縮変形を抑えられ、寸法が安定した強度の高い建材であることからオフィスビルのような高層の建物に適性が高い建材といえます。
木造の大規模建築物が今後増加していくようになったとしても、1つ懸念が残ります。それは、木材を利用するために森林伐採を行ったら、かえって環境破壊につながるのではないかという点です。
しかしながら木材利用は、むしろCO2の削減に貢献すると考えられています。冒頭で紹介した優良木造建築物等整備推進事業も、2050年のカーボンニュートラル※の実現に向けて計画されています。
まず、木は樹齢が若いほどCO2を多く吸収し、高齢木になると成長速度が緩やかになるためCO2の吸収量が少なくなります。そのため、木はある程度成長したら伐採して再植栽した方がCO2の吸収量を強化できるのです。
次に、建築時点のCO2排出量も木造は非木造と比べると少なくなっています。木材は、鉄やコンクリートに比べて製造や加工、建築時に要するエネルギーが少ないこともCO2排出量を少なくすることにつながります。
今や、CO2削減は世界各国の課題であり、こうしたメリットが重視され、木造の大型建築物は日本だけでなく世界各国で増えつつあります。
なお、現状では木造での大型建築物は非木造に比べて工費が高くなるため、普及に向けての最大の課題はコストですが、木造の大型建築物は世界的な潮流でもあり、今後増加することでコストが下がり、さらなる木材利用が促進される相乗効果が期待されています。
※CO2等の温室効果ガスの排出量を均衡させて、排出量を実質ゼロにすること
株式会社 グロープロフィット
代表取締役 竹内 英二