三井不動産リアルティ REALTY news Vol.112 2024 8月号

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今月のトピックス TOPICS
TOPICS 1

次々に登場する木造高層ビルの普及の背景と将来展望

 2024年7月9日に、国土交通省が推進している令和6年度「優良木造建築物等整備推進事業」採択プロジェクトが公表されました。

 優良木造建築物等整備推進事業とは、木造化に係る先導的な設計・施工技術が導入されるプロジェクトや、炭素貯蔵効果が期待できる中大規模木造建築物の普及に資するプロジェクトを支援する事業のことで、審査の結果、事業の目的に適う提案に対しては補助金が支給されます。

 事業に採択された建築物には様々な用途の物件があり、低層の建造物だけでなく高層のオフィスビルが採択される事例もあります。その事例には令和6年度の東京都千代田区の「(仮称)東京海上ビルディング新築工事」や、令和5年度の東京都中央区の「日本橋本町 国内最大級の木造オフィスビル」が挙げられます。

【建物概要】
・(仮称)東京海上ビルディング新築工事
建築主等:東京海上日動火災保険株式会社 階数:地下3階・地上20階建 高さ:約100m 延床面積:約126,000平米
・日本橋本町 国内最大級の木造オフィスビル
建築主等:三井不動産株式会社 階数:地下1階・地上18階建 高さ:約84m 延床面積:約28,000平米

 いずれも従来であれば鉄骨造や鉄筋コンクリート造等が採用されていた規模ですが、木造の建造物です。

 木造の大規模建築物が登場した背景には、「供給側の事情」と「技術の確立」の2つの理由があります。

 供給側の事情とは、日本の森林資源が既に利用期に入っているという点です。戦後まもなく植林された樹木が成長を終え、利用できる時期を迎えていますが、輸入木材の台頭もあって消費量が多くないことから、せっかくの利用期の森林資源を持て余している状態となっています。

 戸建て等の低層建築物だけでは、国内の森林資源を使い切れないことへの打開策としても、木材の使用量の多い大型建築物への利用が期待されています。

 技術の確立とは、CLT(シーエルティー:Cross Laminated Timber)と呼ばれる木材が登場したという点です。CLTとは、繊維方向が直交するように積層接着した大判の木質パネル建材です。CLTは収縮変形を抑えられ、寸法が安定した強度の高い建材であることからオフィスビルのような高層の建物に適性が高い建材といえます。

 木造の大規模建築物が今後増加していくようになったとしても、1つ懸念が残ります。それは、木材を利用するために森林伐採を行ったら、かえって環境破壊につながるのではないかという点です。

 しかしながら木材利用は、むしろCO2の削減に貢献すると考えられています。冒頭で紹介した優良木造建築物等整備推進事業も、2050年のカーボンニュートラル※の実現に向けて計画されています。

 まず、木は樹齢が若いほどCO2を多く吸収し、高齢木になると成長速度が緩やかになるためCO2の吸収量が少なくなります。そのため、木はある程度成長したら伐採して再植栽した方がCO2の吸収量を強化できるのです。

 次に、建築時点のCO2排出量も木造は非木造と比べると少なくなっています。木材は、鉄やコンクリートに比べて製造や加工、建築時に要するエネルギーが少ないこともCO2排出量を少なくすることにつながります。

 今や、CO2削減は世界各国の課題であり、こうしたメリットが重視され、木造の大型建築物は日本だけでなく世界各国で増えつつあります。

 なお、現状では木造での大型建築物は非木造に比べて工費が高くなるため、普及に向けての最大の課題はコストですが、木造の大型建築物は世界的な潮流でもあり、今後増加することでコストが下がり、さらなる木材利用が促進される相乗効果が期待されています。

※CO2等の温室効果ガスの排出量を均衡させて、排出量を実質ゼロにすること

株式会社 グロープロフィット
代表取締役 竹内 英二

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TOPICS 2

将来推計世帯数から見た高齢者住宅マーケット

 2024年4月に国立社会保障・人口問題研究所が日本の世帯数の将来推計※1を公表しました。

 同資料で「世帯総数」は、2025年の5,727万世帯が、2050年には5,261万世帯となり、467万世帯・8%の減少となるのに対し、「世帯主年齢が85歳以上の世帯数」は、2025年の382万世帯から2050年には538世帯になり、156万世帯・41%も増加します。

 グラフからもわかるように、この「世帯主が85歳以上の世帯数」は2035年までは増加し、2035年~2040年にピークを迎え、2045年以降は若干減少しますが、500万世帯前後の水準を維持する見込みで、近い将来に高齢者世帯が大きく減ることはないように見受けられます。

 ここ数年、高齢者住宅マーケットにおいては、“将来的に高齢者は減少していくので、参入は慎重に”という観測があったのですが、この世帯数推移から鑑みて、その懸念はあまり考えなくてもよさそうです。

 一方、高齢者世帯の内訳(2050年)を見ると、単独世帯が51%、夫婦のみ世帯が22%になります。2025年以降大きく伸長していますが、この2つの世帯タイプは、仮に要介護状態になった場合、その多くが“高齢者施設のお世話になる必要が高い世帯”と考えられますので、介護付き有料老人ホームや高齢者向け住宅の需要水準は、今後も確実に現段階から低下はしない予測が立ちます。※2

 現在、一般住宅から高齢者向け住宅・施設に転居(入居)する年齢は80歳代半ば~後半となっています。この年代から一気に介護施設の需要が高まることから、この年代が“高齢者住宅マーケットの主役”と考えます。

 そして“主役”の核となるのは、単独世帯または夫婦のみ世帯。総じて資金力は低いと言われますが、高齢者住宅マーケットは比較的安価な賃貸から富裕層向けの商品まで、需要自体が高いうえに、幅広いバリエーションも見込めるため、富裕層やアッパー層向けの商品開発には今後も期待ができ、安価な賃貸住宅にも安定的な需要が予測されるなど、今後30年程度は注力すべきマーケットと考えられます。

 高齢者の住み替えなどを一つのきっかけとして、「空き家」問題がますますクローズアップされています。年代を問わず単独、夫婦のみ世帯が増加していることを考えると、今後も結果的に「空き家」の増加は避けられないと思われます。

 今のところまだ有効な解決策が奏功していない空き家マーケットを、この高齢者住宅マーケットにリンクして、相互の課題解決のために柔軟に運用していけるか?というポテンシャルについては、国土交通省、厚生労働省などや行政の壁を越えた取り組みも含め、知恵を絞らないといけないテーマとなっています。

※1 世帯数の将来推計(令和6(2024)年推計)
※2 有料老人ホームは開発に総量規制がかかる可能性があります。

株式会社 工業市場研究所 川名 透

家族累計別 世帯数推移
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インバウンドとウェルビーイングとメディカルツーリズム

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