三井不動産リアルティ REALTY news Vol.111 2024 7月号

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今月のトピックス TOPICS
TOPICS 1

土地基本方針の変更が、今後の不動産市場に与える影響

 土地基本方針※1とは、土地基本法に基づき、時代の要請に合わせた土地政策が講じられるように基本的な方向性をまとめたもので、2024年6月11日に、新たな施策等を盛り込んだ変更が閣議決定されました。

 従来の土地基本方針は、宅地の大量供給や投機的取引・地価高騰対策、過剰な開発利用の抑制等が主眼とされていましたが、今回の決定では、限られた国土の土地利用転換やその適正な管理等を進める“「サステナブルな土地の利用・管理」の実現”を目標とするように施策の方向性が変更されています。軸足が宅地化等を前提とした土地政策から、土地の利用転換や管理を前提とした土地政策に移されたということになります。

 従来のように人口増加を前提に宅地化を促進や制限するのは、時代に合わなくなってきており、人口・世帯数減少や少子高齢化、東京圏等への集中、アフターコロナ時代の多様な生活様式への転換、気候変動の影響等も大きい自然災害の激甚化・頻発化へ対応するため、変更せざるを得なくなりました。

 今回変更された土地基本方針では、土地の適正な利用・管理、管理不全土地の発生の抑制・解消を図ることが目標として定められています。例えば、近年増加している空き家の問題にも触れており、空き家・空き地バンク(自治体等の空き家・空き地マッチングサイトのこと)の積極的な活用等も盛り込まれました。

 その変更点を読み解くと、新たな観点から土地利用の線引きが検討されている点が特徴です。

 従来の土地利用の線引きとしては、市街化区域と市街化調整区域というものがありました。市街化区域は市街化を促進する区域、市街化調整区域は市街化を抑制する区域で、主に農村地帯を宅地の乱開発から守る目的で定められました。かつての人口増加時代には、宅地の乱開発によって農地が減少する懸念があったことから、このような制度が設けられましたが、見方を変えると人の住む地域を市街化区域へと誘導する政策であったともいえます。

 今回の土地基本方針の変更は、人口減少や少子高齢化、気候変動の影響等による災害の激甚化・頻発化を背景としており、そこには宅地の乱開発を防止するような議論はない代わりに、ハザードマップに基づく災害エリアからの移転の促進や、ドーナツ化現象に陥っていた都市部の回生策としてコンパクトシティ形成の促進という要素が盛り込まれています。

 かつての市街化区域と市街化調整区域の線引きは、市街化区域の不動産価格を上昇させ、市街化調整区域の不動産価格を下落させる結果となりましたが、今回の土地基本方針の変更によって、今後は、都市災害等への対策や取組みが進んだ地域が、居住や事業の拠点として、注目されるようになることが考えられます。

 また同様に、コンパクトシティの形成が円滑に進捗した地域では、人口の回復に伴って、小売業や飲食業なども活性化し、相乗的に不動産需要が向上していくことが期待されます。

 従来ではあまり重視されて来なかった判断基準が、今回の変更によって明確に意識されるようになり、新たな視点での不動産価値を形成していくことになるでしょう。

※1 土地基本法の制定は1989年で、土地基本方針は2020年の土地基本法の改正に基づき制定された

株式会社 グロープロフィット
代表取締役 竹内 英二

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TOPICS 2

消滅可能性自治体をどう捉えるか

 2024年4月、人口戦略会議は人口から見た全国の地方自治体の「持続可能性」について発表※1しました。今回の調査は10年前に発表された同様の調査※2をリニューアルしたものとなり、人口の「自然増減」と「社会増減」をベースにした分析となっています。

 その分析は、「20~39 歳の女性人口(若年女性人口)」が2020年から2050年の30年間に50%以上減ると推測できる自治体を「消滅可能性自治体」とし、それ以外を社会減状況と自然減状況により大きく3タイプに分類しています。

 3タイプを簡単に説明すると、「自立持続可能性自治体」は、人口の社会減・自然減が共に少ない(=若年女性人口が大きく減らない)自治体、「ブラックホール型自治体」は、社会減(=若年女性の流出)は少ないが、自然減対策(=出産数などの増加対策)強く求められている自治体「その他の自治体」は、消滅の危険性は低いが、自立には社会減対策または自然減対策が“足りていない”自治体、となります。

 発表によれば「自立持続可能性自治体」は全国で65市町村。九州エリアに集中し、北海道・東北エリアには殆どありません。また、人口30万人以上の大都市にも存在しません。

 一方、「消滅可能性自治体」は、北海道・東北エリアと、人口5万人未満の自治体に多くみられます。北海道では約65%、東北では約77%の自治体が「消滅の可能性あり」判定となりました。なお、「ブラックホール型自治体」関東エリアと、人口10万人以上の自治体に多くみられます。

 この分析は若年女性人口が減少すると出生数は低下することから、その将来動向に着目して行われたものです。分析結果は“これまでの状態”を示すものであり、各自治体に今後、人口増加のために“何が必要なのか”を検討してもらうための『素材』であると考えられます。

 2014年の発表では、896自治体が消滅可能性都市と位置付けられ、今回の人口戦略会議の推計では744自治体と数値自体は減ったものの、「外国人の入国超過数が大きく増加し、全体として依然少子化基調は続いているので、移住者獲得などの人口流出対策以上に、今後の少子化対策がより重要」との指針が示されています。

 現在、人口増加のための施策として多くの自治体で標榜されている「少子化対策」ですが、出産可能年代の女性を増やすだけでは問題は解決しません。若年女性にとって子育てしやすい“環境”がなければ少子化の改善は難しいというのは「当たり前」で、喫緊の課題であると同時に、長年に亘る取組みを構築する必要もあります。

 各自治体は、この調査で自分達がどこに分類されたか?に一喜一憂するのではなく、この予測を踏まえて、いかにそれぞれの地域特性に合わせた有効な人口減対策を考え、実施するかが問われています。

※1 「日本の地域別将来推計人口(2023年12月)」に基づき発表
※2 2014年は日本創成会議により、「消滅可能性都市」として発表された

株式会社 工業市場研究所 川名 透

接続可能性に関する分析結果
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TOPICS 3

市場全体は好況ながら、カテゴリーによっては不透明感も

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