土地基本方針※1とは、土地基本法に基づき、時代の要請に合わせた土地政策が講じられるように基本的な方向性をまとめたもので、2024年6月11日に、新たな施策等を盛り込んだ変更が閣議決定されました。
従来の土地基本方針は、宅地の大量供給や投機的取引・地価高騰対策、過剰な開発利用の抑制等が主眼とされていましたが、今回の決定では、限られた国土の土地利用転換やその適正な管理等を進める“「サステナブルな土地の利用・管理」の実現”を目標とするように施策の方向性が変更されています。軸足が宅地化等を前提とした土地政策から、土地の利用転換や管理を前提とした土地政策に移されたということになります。
従来のように人口増加を前提に宅地化を促進や制限するのは、時代に合わなくなってきており、人口・世帯数減少や少子高齢化、東京圏等への集中、アフターコロナ時代の多様な生活様式への転換、気候変動の影響等も大きい自然災害の激甚化・頻発化へ対応するため、変更せざるを得なくなりました。
今回変更された土地基本方針では、土地の適正な利用・管理、管理不全土地の発生の抑制・解消を図ることが目標として定められています。例えば、近年増加している空き家の問題にも触れており、空き家・空き地バンク(自治体等の空き家・空き地マッチングサイトのこと)の積極的な活用等も盛り込まれました。
その変更点を読み解くと、新たな観点から土地利用の線引きが検討されている点が特徴です。
従来の土地利用の線引きとしては、市街化区域と市街化調整区域というものがありました。市街化区域は市街化を促進する区域、市街化調整区域は市街化を抑制する区域で、主に農村地帯を宅地の乱開発から守る目的で定められました。かつての人口増加時代には、宅地の乱開発によって農地が減少する懸念があったことから、このような制度が設けられましたが、見方を変えると人の住む地域を市街化区域へと誘導する政策であったともいえます。
今回の土地基本方針の変更は、人口減少や少子高齢化、気候変動の影響等による災害の激甚化・頻発化を背景としており、そこには宅地の乱開発を防止するような議論はない代わりに、ハザードマップに基づく災害エリアからの移転の促進や、ドーナツ化現象に陥っていた都市部の回生策としてコンパクトシティ形成の促進という要素が盛り込まれています。
かつての市街化区域と市街化調整区域の線引きは、市街化区域の不動産価格を上昇させ、市街化調整区域の不動産価格を下落させる結果となりましたが、今回の土地基本方針の変更によって、今後は、都市災害等への対策や取組みが進んだ地域が、居住や事業の拠点として、注目されるようになることが考えられます。
また同様に、コンパクトシティの形成が円滑に進捗した地域では、人口の回復に伴って、小売業や飲食業なども活性化し、相乗的に不動産需要が向上していくことが期待されます。
従来ではあまり重視されて来なかった判断基準が、今回の変更によって明確に意識されるようになり、新たな視点での不動産価値を形成していくことになるでしょう。
※1 土地基本法の制定は1989年で、土地基本方針は2020年の土地基本法の改正に基づき制定された
株式会社 グロープロフィット
代表取締役 竹内 英二