三井不動産リアルティ REALTY news Vol.109 2024 5月号

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地方都市再生のカギ、宇都宮の地価上昇に見るLRTの効果

 2023年8月に開通した芳賀・宇都宮ライトレール(以下、宇都宮LRT)が話題となっています。

 LRTとは、ライトレールトランジット(Light Rail Transit)の略称であり、速達性および定時制を向上させた路面電車のことです。一般的な電車のことをヘビーレールと呼ぶことがあり、ライトレールはその対義語ともされています。

 宇都宮LRTは北海道・東京を除く東日本では初の路面電車で、宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間、19駅14.6kmで運行され、1987年の構想表明から費用問題や既存交通インフラとの軋轢の末、36年を経て開業に漕ぎ着けました。運営状況は当初の予想を上回り、開通後8か月の2024年4月20日で利用者が300万人超え、利用者予測では平日12,800人、土・日・祝日4,400人であったのに対し、それぞれ約13,000人、9,000~13,000人の乗車※1となっています。

 また、2024年3月の地価公示では、宇都宮LRT沿線の住宅地の価格が大きく上昇しました。LRT開業の効果が早くも出た可能性があり、具体的には、宇都宮LRTの「ゆいの杜中央駅」の付近にある住宅地「宇都宮-39※2(宇都宮市ゆいの杜4丁目19番14)」の地価上昇率が7.5%と、栃木県内で上昇率1位の地点となっています。

 ゆいの杜はUR都市機構によって開発されたニュータウンで、宇都宮LRTの開通によって利便性が大きく上昇したことから、子育て世帯を中心に人気が高まり、地価上昇に繋がったと考えられます。

 LRTの敷設は、従来の鉄道と比べると建設費用が大きく抑えられることから、全国の自治体もLRTによる新たな街づくりを模索し始めています。浜松市では市民団体が市長にLRTの整備を提言し、那覇市もLRTの整備構想を打ち出している状況です。

 LRTは慢性化した車両渋滞の悪影響緩和のほか、高齢者などが車に依存せず安心して移動できる交通手段ともなることから、街の再生の起爆剤として期待されています。

 とはいえ、LRTを整備しただけでは、必ずしも街が活性化され、ポテンシャルをアップできるとは限りません。例えば、富山市では2006年に日本初のLRT路線が開通しましたが、特に地価上昇には影響を与えませんでした。実際に、富山地方鉄道線の市内電車(富山ライトレール)の下奥井駅周辺にある地価公示の標準地「富山-46※2 (富山市奥田本町字一番割34番21)」では、開通後の2006年以降も2015年までの9年間に亘って地価が下がり続けています。2006年当時はまだ全国的な地価上昇は見られなかった時期でもあり、LRTの整備も地価のダウントレンドを挽回するに至らず、下落が継続していたものと思われます。

 近年は全国的に地価上昇の傾向があることから、特に新たな交通網を整備しなくても多くの地点で地価自体が上昇しています。

 「宇都宮-39」の地価上昇の例は、たまたま近年の地価上昇トレンドと時期が合致しただけという見方をすることもでき、LRTを整備しなくても地価が上昇していた可能性は十分にありますが、宇都宮LRTの沿線では、開通による利便性の向上が地価上昇を後押ししていると思われる現象が見られます。

 また、LRT開通後も地価が下がっていた「富山-46」では、2020年以降、総じて地価上昇が続いています。これは漸くLRTの効果が表れてきたと捉えるより、近年の全国的に見られる地価上昇によるものと思われ、LRTは地価に影響を与える1つの要因に過ぎないと考えるべきでしょう。

 むしろ、地価上昇は近年、福岡市で行われている天神ビッグバンや博多コネクティッドのような大規模再開発※3がけん引するケースの方が顕著な傾向にあります。新型コロナウイルスの影響を受けて全国的に地価が下がった2021年の地価公示でも、福岡市の地価は全般的に上昇していました。

 以上のことから、地方都市の再生には、LRTのような交通網の再編だけに留まらず、都市中心部へ人を呼び戻すような整備・再開発等も含めた総合的な街づくりや、雇用創出・スタートアップの誘致、またLRTと連係する2次交通網の構築など、包括的な施策が必要とされています。

※1 宇都宮ライトレール株式会社 リリースより

※2 標準地番号:標準地とは土地鑑定委員会が、正常な価格を算出して公示することによって、取引の指標や不動産鑑定評価などの基準とする土地で、当該地を含む、土地の利用状況、環境等が通常と認められる一団の土地

※3 両開発では一例として、2028年末までに竣工するビルには容積率の上乗せボーナスがあるなど再開発を促進する仕組みがある

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TOPICS 2

インバウンド客の需要が、日本の再成長のヒント

 日本政府観光局発表※1によれば2023年の訪日外客数(総数)は約2,507万人。コロナ前の2019年は約3,188万人でしたので、完全回復とはなっていませんが、2024年3月のインバウンド客数が単月として初めて300万人を超える状況であり、国内景気の引き上げに一役買っているといえます。

 観光・レジャー目的のインバウンド客が一人一回当たりの旅行で支出する金額※2は、2019年(10-12月期)の16.7万円から、2023年(10-12月期)は21.8万円に増加しています。特に、欧米諸国のインバウンド客の宿泊関連費が顕著に増大しており、一泊当たりの平均宿泊費トップのイギリスからの客の平均泊数は13.0日(2019年は12.2日)、アメリカは11.2日(同9.8日)、イタリアは12.8日(同13.5日)と、2019年調査時点からの増加幅は小さかったり減ったりですが、宿泊費については2019年同月比でイギリス169.8%、アメリカ170.5%、イタリア194.3%と各国とも大きく増加しています。

 一方、受け入れ側のホテルについても、2010年代後半以降の観光立国化の流れにのって、多くの外資系高級ホテルが日本各地に進出してきています。例としては、ザ・リッツ・カールトン日光、ブルガリ ホテル 東京、アマン ニセコ、シェラトン鹿児島等ですが、これらのホテルでは、室料が一泊数十万円以上というケースも珍しくなくなりました。

 さらには、ニューヨークタイムズ紙の「2023年に行くべき52ヶ所」で岩手県盛岡市が2番目に、「2024年に行くべき52ヶ所」で山口県山口市が3番目に取り上げられるなど、インバウンド客の興味の対象が定番の観光地以外にも拡がっている点は注目です。

 訪日機会の増加に従い、買い物や飲食だけに留まらず、個別に興味のある場所に行き、体験を楽しむ…いわゆる「コト消費」を目的にする人が増えています。具体的には、日本各地のお祭りやイベントに参加する、華道や茶道を体験する、芸者体験・忍者体験をする、アニメの聖地巡礼をする等の事例が挙げられ、「コト消費」のポイントとしては「日本ならでは感」が評価されているようです。今後さらに、インバウンドの消費を伸長させていくには、下のグラフの、飲食費や買い物に比して狭い交通費、娯楽関連費の幅を拡げて行く施策を日本全体で展開するべきでしょう。

 こうしたインバウンド客の動向をヒントに、日本人が見過ごしていた観光資源、伝統行事や伝統産業などを再評価し、新たな「何か」を発見・創造、あるいはコラボしたり育成したりすることで、地方の活性化などの大きな動きを招来し得るのではないでしょうか。

※1 2024年1月17日発表

※2 訪日外国人消費動向調査、2024年1月17日観光庁発表

株式会社 工業市場研究所 川名 透

国別 1人・1泊当たり旅行支出額
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不動産小口化で不動産価値を高めるスキーム

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