2023年11月時点の各ビジネスエリア平均空室率※は、東京6.03%(対前年同月比0.35pt下落)、大阪4.26%(同0.78pt下落)、名古屋5.49%(同0.07pt下落)、札幌3.00%(同0.88pt上昇)、仙台6.49%(同1.87pt上昇)、横浜6.61%(同1.43pt上昇)、福岡5.52%(同1.06pt上昇)となりますが、新型コロナウイルス感染症が第5類に移行したことで、この1年の空室率の変動は全体的には小幅な動きとなっています。
平均賃料については、東京で@19,726円/坪(同-355円)と大きく下がり、札幌は@10,129円/坪(同+382円)と大きく上がりました。2022年11月を100とした場合のエリア別平均賃料の推移は以下のとおりです。
東京エリアの賃料低下については、2019年と2023年を比較しても、稼働面積が大きく増えていないことが低下要因と考えられます。
東京エリアの貸室面積はコロナ禍前の2019年11月には7,621千坪、空室面積は119千坪で稼働面積は差し引き7,502千坪でした。コロナ収束後の2023年11月は貸室面積8,020千坪、空室面積483千坪、稼働面積7,536千坪であり、2019年11月からの4年間で貸室面積は399千坪増えたにもかかわらず、稼働面積は34千坪(貸室面積増加分の8.5%)しか増えていないという状況で、空室面積を減らす手段として賃料を下げていく状況が続いているようです。
一方、賃料上昇がみられる札幌エリアの状況を見ると、貸室面積は2019年11月で512千坪、空室面積11千坪、稼働面積501千坪でした。2023年11月は貸室面積521千坪、空室面積16千坪、稼働面積505千坪と、4年間での貸室面積は9千坪増、稼働面積は4千坪(同44.4%)増で、新規供給分も順調に稼働している状況がわかります。
新規竣工ビルが多い東京エリアの特性を考えれば、4年間で34千坪吸収できるというのは、そのまま需要の強さを示すものではありますが、やはり、近年の「東京ビジネス地区の新築ビル供給の多さ」による急激な貸室面積の増加は、厳しい状況を呼んでいるものと考えられます。
一般的には、大規模新築ビルの賃料水準は高くなる傾向にはありますが、市場全体で“早期に空室を埋めるための賃料引き下げ”が続くとすれば、新築ビルの賃料にも影響する可能性が高くなるでしょう。
かつて、東京エリアの大規模新築ビルはその市場優位性から、「竣工時満稼働が当たり前」でしたが、近年は竣工時に空室を残す物件も多い様子です。大規模新築ビルの主要な借り手である大手企業等での、コロナ禍の経験を踏まえたオフィスの分散化が進んでいることが要因となっていることも考えられます。
東京エリアに比べれば市場規模に差はあるものの、福岡・札幌エリアなどは経済状況が好調です。オフィスの安定稼働と賃料を上げやすい環境のマーケットへの今後の投資が進むことで、オフィスマーケット全体の活性化がもたらされることに期待したいところです。
※空室率、貸室・空室面積、平均賃料は、三鬼商事株式会社のオフィスマーケットデータ引用
株式会社 工業市場研究所 川名 透