2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所が、2020年国勢調査の確定数をベースに新たな日本の将来推計人口を発表し、大きな話題となりました。要点としては、2020年には1億2,615万人であった人口が50年後の2070年には8,700万人になり、約3割減少するというもの。
年齢別で見ると18歳未満人口は概ね半減、18~34歳人口及び35~59歳人口は約4割減り、60歳以上人口も約1割減となります。報道などでは国力の低下を懸念する解説が目立ちましたが、少子高齢化が不動産市場にどのような影響をもたらすかについて「日本の世帯数の将来推計(全国・2018年推計)」を元に改めて考えてみました。
同資料に沿って、2020年から2040年迄の間に、一般世帯数(全国・年齢別4分類)がどのように推移するかを見ると、単独世帯は1,934万世帯→1,994万世帯(+3.1%)、夫婦のみ世帯は1,110万世帯→1,071万世帯(-3.5%)、夫婦と子世帯1,413万世帯→1,182万世帯(-16.3%)、ひとり親と子世帯502万世帯→492万世帯(-1.9%)であり、少子化の影響の大きさが顕著に現れています。
首都圏の推移(1都3県合計、2020年→2040年)を見ると、単独世帯は665万世帯→701万世帯(+5.4%)、夫婦のみ世帯は324万世帯→334万世帯(+3%)、夫婦と子世帯447万世帯→389万世帯(-12.9%)、ひとり親と子世帯143万世帯→151万世帯(+5.5%)。より高いステータスや収入を求めての社会的流動による若年層の流入が多い首都圏では、夫婦と子世帯のみが減少する予測となっています。
それを踏まえると、首都圏における住宅商品については、単身者と二人世帯(夫婦のみ、またはひとり親と子ひとり)をボリュームターゲットとしてイメージした商品にシフトせざるを得ません。既にいくつかのマンションデベロッパーはこの状況を認識し、主力商品の切り替えを進めているようですが、若年層では賃貸を志向する層も多く、これだけではマーケットのボリュームの維持は厳しいと考えられます。
一方、高齢者世帯(首都圏・世帯主65歳以上の世帯)に着目すると、2020年の559万世帯から2040年は665万世帯と、こちらは約20%の増加推計です。保有資産も多く、ターゲットとしては有望で、分譲・賃貸にかかわらず「高齢者向けの商品の開発」が重要な戦略となってきます。
従来、「高齢者向け住宅」といえば、居住そのものよりも“介護”との近接性を重点的に視野に入れた構築をする住宅(専有面積25㎡未満の住まい)が主流となっています。商品企画もそれに合わせてきたというのが実態でしたが、平均寿命も伸びつつある中で、日常生活の自立性をより促進していく政策もあり、「老後をアクティブに、安心して楽しく過ごすこと」を重視する層が増えると考えられます。そして、子や孫に資産を残す必要が少ない単身者や夫婦のみ世帯が増加している状況を踏まえれば、老後を楽しめるサービスや設備が調った日本版CCRC等※のサービス重視型賃貸住宅の需要が伸びると予測されます。今後このカテゴリーは、注目分野となっていくでしょう。
※CCRC=Continuing Care Retirement Community 高齢者が地域社会に溶け込み、地元住民や子ども・若者などの多世代と交流し共働する「オープン型」の居住スタイル。(出典:日本版CCRC構想有識者会議資料)
株式会社 工業市場研究所 川名 透