コロラド州のアスペンは良質な雪で有名な高級スキーリゾート地ですが、超高額別荘の人気がこの2年間で急速に高まりました。アメリカを代表する高級別荘地というと最もメジャーなのはニューヨークの東にあるハンプトンズなのですが、アスペンの価格があまりにも高くなったので、「ハンプトンズが格安に見える」とまで言われています。
コロラド州最大の都市はデンバーで、有森裕子や高橋尚子両アスリートの高地トレーニングで知られるボルダーはこの北です。アスペンはデンバーの南西約180km、ロッキー山脈のふもとの人口約8,000人の町で、標高は約2,400m、1900年代後半からセレブが集まるようになりました。
そのアスペンの別荘に急速に人気が集まり始めたのは2020年の夏からで、これは新型コロナ対策で金融の超緩和策が始まった直後にあたります。これ以降、売買件数が増加するとともに価格もみるみる上昇しました。
具体的な物件の例を見てみましょう。
2022年の6月に1億$(133億円)という値段で売りに出た物件は、3階建ての10寝室、アスペンの中でも最も大型の別荘の一つで、ゴンドラまで僅か90mという近さもセールスポイントです。しかし7月下旬時点ではこの物件が成約したという報はまだありません。
2021年の6月に7,250万$(96.4億円)で成約した物件が、今の所、成約に至った価格としては最高額です。11寝室で、売主は2009年に4,300万$(57.2億円)で買った後にリノベをしていますが、その費用は分かりません。
2022年の3月に5,000万$(66.5億円)で成約した物件は、わずか3ヵ月前に3,100万$(41.2億円)で売買された物件の転売です。「スキーイン・スキーアウト」という作りでスキーを履いたまま建物から出入りすることができ、各種の別荘の中でも人気があるタイプです。
直近では4,800万$(63.8億円)と3,760万$(50.0億円)の2物件が成約しています。
アスペンで別荘の価格が急上昇した原因の一つは、極端な品不足です。各種の規制や私有地の存在で別荘の新築がほぼ不可能なため、既存(中古)物件を買うしかありません。
アスペンのこのクラスの別荘売買で特徴的なのは「市場外取引(オフ・マーケット取引)」が多いことです。これはいわゆる「ポケットリスティング」の一つで、仲介業者が物件をリスティングしない、あるいはリスティングの前に買い手を見つけようとするわけです。
さてインフレ警戒からの利上げで、アスペンも今までのような一本調子の上昇とはいかなくなりそうです。しかし市場の方向性を見定めようとしてもアスペンの超高額別荘の市場規模は非常に小さく、取引ごとに大きくブレます。新たな成約が出るたびに、「まだ強気で行ける」「いや下がった」という一喜一憂をすることになる可能性があります。
上にあげた「1億$(133億円)」の物件の価格がどうなるかも、今後の目安となりそうです。
(ドル=133円 2022年8月15日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清