今回はアメリカ人が家を買いたい時に書く「ラブレター」の話です。
アメリカで住宅を売る時は売主とその専任を受けた不動産仲介業者が二人三脚で売却を進めます。売出し価格、その他の条件を整理して「売り物件」としますが、その後、売却がどのようなプロセスをたどるかは、ケース・バイ・ケースです。
典型的には、まず購入希望者からの「オファー」を集め、仲介業者は集まったオファーについて比較しアドバイスをしますが、最終的には売主本人がどれか一つを選びます。
「より高い価格であること」が当然、最も重視されます。市場へ売出した価格より高いオファーもよくありますし、ビッド合戦となって競りあがっていくこともあります。
支払い方法が全額現金なのかローン併用なのかも重視されます。日本よりもローン審査で落ちるケースが多い上、ローンだと現金より入金が遅くなります。これら以外にもいろんな条件があり、もろもろを比較した時にどのオファーを選ぶべきか迷うことがあります。
そこで出てくるのが「ラブレター」です。
これは購入希望者がオファーと一緒に売主あてに出す手紙のことで、「自分たち家族はあなたの家を気に入りました。ぜひ私たちを選んでください」と、情に訴えるわけです。
長さは1ページがちょうど良く、ファミリー・ヒストリーの様なものは長すぎて読んでもらえません。また「公正住宅法」には注意を要します。この法律は「売主は人種や宗教等で差別して買主を選んではいけない」としています。ラブレターには自分の人種や宗教等を書くべきではなく、またそれらが分かる家族写真の同封も好ましくありません。
一つの物件に集まるオファーは、平常時にはせいぜい数件でした。しかし2020年の夏の終わりから住宅価格が上昇を始め、その後、市場が過熱し売りの在庫数も少なくなりました。オファーが50件というのは普通で、100件以上集まったというのも珍しくありません。
これに伴い、昔は一種の裏ワザだったラブレターも常態化し、出す方は物件をいちいち見には行かず、コピペでラブレターを乱発している状態になりました。
以下でご紹介するのは、ある「プロの作家」がオファーを6回連続で蹴られ、奥さんと一緒に本気で書いたラブレターの一節です。やけになりながら書いている可能性があります。
「売主様:夕暮れ時、キッチンへ差し込む光りが柔らかく輝く様子を好きになりました。」
「売主様:郵便受けの横に立っているカエデの木に幸せを感じました。」
「売主様:焚き火の香りで風に揺れる庭の木々と、裏庭にあったバスケットボールに心をひかれました。ご自宅の前を通った時に聞こえたガレージを閉める音が胸をうちました。」
アメリカ人達もなかなか苦労が多いようです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清