日本人にとってハワイは「最も身近なアメリカ」ですが、大部分のアメリカ人にとってのハワイは「ポリネシアへのエキゾチックな入り口」です。しかしアメリカ人が持つそのようなイメージが近年変わり始めています。動きは西海岸から始まっていました。
その前に「ハワイと不動産」の話をまとめます。それぞれ慣習が異なる1,000を超す小さな部族があり、その上にカメハメハ王朝が成立、その後アメリカが支配、サトウキビのプランテーションが大きく発達しました。ハワイの不動産の諸制度には各時代の名残が今も重層的に色濃く残っていて、アメリカ本土とは異質な部分があります。
日本の会社もリゾートホテル開発の際に地元の部族から思わぬ主張をされたり、ある邦銀が抵当権をつけたつもりの土地が、登記的には存在するが物理的には存在しなかった等、ワイルドな話があります。ハワイでの不動産投資の際にこの手のリスクを避ける最善の方法は、「信用できる会社から各種法令に適合した建物を土地付きで買う」ことでしょう。
本土のアメリカ人のハワイに対する見方が変わったと私が気付いたのは、2014年です。フェイスブックの若き大富豪・ザッカーバーグ氏がカウアイ島で700エーカー(86万坪)を推定1億$(110億円)で買いました。しかしその後、この土地はトラブルに見舞われます。彼の弁護士がハワイ州の不動産の特殊性を十分に認識していなかったため、「小道の通行権」の問題で数百人の地元民を当事者とする8件の訴訟を起こすはめになっています。
マイクロソフトの故ポール・アレン氏やセールスフォースのベニオフ氏がハワイ島で不動産を購入、デルのデル氏やペイパルの創業者などを始めとするカリフォルニアの大小のIT長者も次々に購入していきました。ハワイはカリフォルニアからそう遠くはないのです。別荘やセカンドホームの購入層が以前の俳優やミュージシャンから、IT長者に変わりました。
数億円、数十億円といった超高額物件を買う層に人気の島は、カウアイ島です。ホテルはマリオットの最高級ブランドであるセントレジスもあることにはありますが、基本的には何もない島です。カウアイ島での別荘暮らしとなると、シェフやメイドを雇い、ヨットは丸ごとで借りて…というような話になるはずです。
ハワイ州での新型コロナの影響を見てみたいと思います。全米で最も厳しいとされる規制を敷いて抑え込みを図り、国外やアメリカからは勿論、ハワイの島と島の往来についても検疫を強制、ある時期は旅行客が100%いなくなるという徹底ぶりでした。
その後、規制を緩和した時期と、「アメリカでの不動産ブーム+ハワイでのリモートワークへの憧れ」という動きで、2021年の春から夏にかけて別荘需要が大変な賑わいとなりました。
デルタ株の脅威はまだ深刻化していませんが、拡大への警戒感は出ています。しかしアメリカ人の間で高まったハワイ人気は、今後も長続きするのではないでしょうか。
(ドル=110円 2021年9月1日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清