若干分かりにくい形をとっていますが、中国の住宅市場に変調が起きています。
分かりやすい方から話せば、マンションの販売価格を2~3割値下げしたデベの事務所に、既購入者が代金を返せと押しかけるという騒ぎが各地で起きています。SNS等も検閲で削除されてしまう国なので正確な規模は不明ですが、かなりの数の都市でこのような動きが広まっているようです。
二つ目の分かりやすい話は、土地の公売で不調が目立っていることです。中国では最大の「地主」は市役所等の各地方政府で、ここが放出する土地でマンション事業が行われます。これらの売れ残りはデベのセンチメントが冷えていることを示しています。
そのような中、9月の70大中都市住宅価格指数は前月比0.9%上昇と好調で、特に下位35都市は先月は前月比で2%も上昇していました。しかしこれには裏があります。
中国は各地の中小都市で「貧民街再開発プログラム」を行いました。これらは中央銀行が中国開発銀行を通じて5000億$(56.5兆円)という超巨額の資金を供給するという荒業で実施されていたのです。立ち退き補償金をもらった住民は新築マンションを買っています。先に述べた下位35都市で価格上昇が起きているのは(地方都市では不動産市場規制が緩いという点もありますが)、「貧民街再開発プログラム」による底上げもかなりあったようです。
中国政府にはもう一つ誤算が起きました。習近平主席の肝いりで進められた賃貸住宅の供給拡大方針が裏目に出て、全国30の都市で家賃が前年比二ケタ上昇となってしまったのです。直接的な原因は中間に立つマンション賃貸会社が、家主に高い借り上げ賃料を提示し転貸する家賃も引き上げたためで、これにより相場全体の上昇が起きました。
目先、住宅市場は悪化見込みですが、「ひどい悪化」となるかどうかは不明です。中国経済は成長率の鈍化や拡大しすぎた債務、アメリカとの貿易戦争等、苦境にあります。住宅セクターは経済の最重要部門ですから、簡単に悪化させるわけにはいきません。
現在、多くの市で採られている住宅市場抑制策をどうするかという問題もあります。中国の住宅市場は非常にシクリカル(循環的)で、従来はそれは主に政策に起因するものでした。その意味で、住宅市場は「管理されていたし管理可能だった」のです。中国の経済規模は非常に大きなものになり、またこれ以上の借金をするのはあまりにも危険で、政策により住宅市場をコントロールするという話にももはや限界があるように思えます。
(ドル=113円 2018年11月5日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清