「ワン・トリック・ポニー」というのは「一芸しかできない仔馬」のことで、見世物小屋やサーカスの動物ショーに出演する、片足をあげてみせることしか芸がない仔馬です。
アメリカのSCリートと言えば、最大手のサイモン・プロパティーは時価総額で世界最大の不動産会社ですから、これを「ポニー」と呼んだら怒られてしまいます。しかし、ほとんどのSCリートは「SC(モール)だけ」しか手掛けて来ませんでした。
そのワン・トリックぶりに変化が表れています。オンライン通販に押される中、SCリート(モール会社)が従来は見られなかった種類のテナントを入れ始めているのです。
例えば百貨店の退店後にコールセンターとかアフターサービスの拠点といったオフィスを入れる例が目立ちます。敷地内に賃貸マンションを建てる例もあります。モールでは飲食はフードコートが定番なのですが、本格的なレストラン街を増設する例も多くあります。
SCリートも含め、アメリカのリートは日本のリートとは異なり経営者も社員もいる完全な独立会社です。さらに竣工後の自社保有を前提に自ら開発もする点、税務上の取り扱いを別にすれば、日本の不動産デベの方に似ている面が多々あります。
SCリートに限らず、オフィスビル、賃貸マンション、ホテル等、アメリカではほとんどのリートが専業特化しています。一方、日本の大手デベは「総合不動産会社」だらけな訳ですが、なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。
たぶん、日本では「先に土地ありき」だったからなのだと思います。なんらかの形で得た事業機会をどう活かせば良いか、それがビルになり、ホテルになり、SCになり、マンションになりと言った具合に広がって、行きつく先が「総合不動産会社」だったのでしょう。
アメリカの場合はとにかく国土が広大で、特にSCの場合はその気になれば物理的にはどこにでも建設可能です。もちろん主要道からの道路付けとか人口の多い都市までの距離、競合するSCの有無、ゾーニング他の許可、さらにテナントの獲得や融資の獲得等々といった面でアメリカなりの競争条件はあるのですが、日本での競争とはかなり異質です。
手掛ける事業を得意なものに絞って他は手掛けずにとことんその効率性を追求するという事業戦略が、アメリカのSCリートで裏目に出ています。通販やディスカウンターに食われてモールが不調になり、一方で専業特化してきたために逃げ道が極端に少ない中で、なんとか踏ん張ろうともがいているところが目立つ状態なのです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清