アマゾンが昨年、投資規模50億$(5600億円)で第二本社を新たに建てたいとしたため、州政府や市役所レベルから不動産会社まで、大騒ぎが起きました。
238都市が立候補し10都市が最終選考に残っていたのですが、この11月に意外な結論が発表されました。当初の話とは違って「50億$(5600億円)規模の第二本社1ヶ所」ではなく、半分の「25億$(2800億円)規模の本社、2ヶ所」を建てるというのです。
選ばれたのはニューヨークのロングアイランドシティ(クイーンズ区)とワシントン近郊のクリスタルシティ(バージニア州北部のアーリントン郡)です。
アマゾンの招致を狙った州政府や市役所は多額の優遇策をアマゾンに提示し、インセンティブ合戦の趣を呈していたのですが、額の大きさは決め手にはなりませんでした。最終的に選ばれた所よりもニュージャージー州やメリーランド州の方がはるかに多額を提示していたのです。最も重視されていたのは、人材の獲得のしやすさだったと言われています。
今回の経過を見ると、アマゾンの作戦勝ちだったのかも知れません。「50億$」と言われて各州が優遇条件を競い合い、それが「25億$」になるならインセンティブも半分という訳にはいきません。「倍から切り出す」というのは商売上の駆け引きの古典的な手口です。
選ばれた都市の一つ、ニューヨークは意外なことに既にもうITの集積地です。サンフランシスコやシアトル、シリコンバレーほどではないのですが、グーグルやフェイスブック、ツイッター等が大き目なオフィスを構えています。
不動産会社もさっそく動き出し、バンを借りあげて投資家を乗せ、物件ツアーを始めています。あるマンションデベは仕掛かり中の物件のペントハウスをアマゾンのCEOのベゾス氏に売ろうと策を練っています。
もう一つのクリスタルシティはペンタゴンに近く、ポトマック川を挟んで対岸がワシントンDCです。アマゾンは今後は連邦政府系の仕事も取り込もうとしているのではないかと見られています。当面のオフィス確保のしやすさ、ベゾス氏が大きな別宅や有力新聞社のワシントン・ポストを持っていることも同市を選んだ理由として想像されています。
通常はこのような新しいオフィスの候補地選びは、社内にタスクフォースを作って隠密裏に進められます。しかし今回のようなやり方を取ることで、アマゾンは全米中の自治体から地域に密着した非常に良質で大変な量の情報を労せずして得ることが出来ました。これも同社にとって今後、大きな財産になる可能性があります。
(ドル=112円 2018年12月10日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清